Vol.83

MONO

26 NOV 2019

ボーダーカットソーを極める「G.F.G.S.」。定番をオーダーメイドで

ボーダーのカットソーやTシャツはデイリーウェアの定番中の定番。多くの人が1枚は持っているアイテムだろう。しかし、そんな定番だからこそ、突き詰めると美学になる。それを教えてくれたのが、ボーダーカットソーに特化した新潟県加茂市のファクトリーブランド「G.F.G.S.」だ。ピュアオーガニックコットン100%、地元での完全受注生産にこだわった、ユニークなボーダーカットソー「ORDER BORDER」を紹介しよう。

日本のボーダーカットソー=G.F.G.S.になりたい

古くから続くニット・縫製業の産地、新潟県加茂市。ファクトリーブランドG.F.G.S.のラボは、そんな街の駅前商店街にある。ブランド名G.F.G.S.はニューヨークのライブハウス”CBGB"の影響を受け、"Good Feel, Good Style."の頭文字4文字からとった。近隣の職人と協業してつくるTシャツやカットソーは、すべてボーダーだ。

購入者は、ボディタイプ、袖丈、カラーパターン、カラー、サイズを、自分の好みで選ぶことができる。

「普段からいつもボーダーを着ているんですよ」と言いながら出迎えてくれた代表取締役社長の小栁雄一郎さんがこの日身につけていた「ORDER BORDER」のカットソーは、ボートネックのピンク×オフホワイト。金髪にこの配色とは、実にパンクである。

代表取締役社長の小栁雄一郎さん。
小栁さんは加茂市内で繊維業を営む家に生まれた。幼い頃からシルクスクリーンでTシャツをつくり、大人になっても隣町の三条市で刃物職人をしながら週末にTシャツやカットソーをつくり続けていた。県内外からの受注が増え、2014年にG.F.G.S.を立ち上げた。県内だけでなく、今や日本全国、ドイツや台湾など海外からも注文があるという。

生産や第3土曜に受注会を行っているラボに伺うと、壁のあちこちにビビットなカラーのアートや、ロックの名言が散りばめられ、棚にはレコードが所狭しと並んでいた。

取材でお邪魔したラボ。現在は新ラボに引越し済み。

ロック界の重鎮、ブルース・スプリングスティーンの名言も。
「僕はロックやパンクミュージックと、その精神性に大きな影響を受けていて。ファストファッションメーカーのボーダーカットソーやTシャツってナチュラルカラーが多いけど、僕らはあえて蛍光色を提案したりしています。セックス・ピストルズを連想させる黄色、ピンク、黒、白なんかは、個人的にはお気に入り」

自身もボーダーカットソーやTシャツが「昔からめちゃくちゃ好きだった」という小栁さん。

「『セントジェームス』とか、アメリカやヨーロッパのブランド品を愛用していたのですが、サイズや形が海外仕様だから自分には合わなくて。自分に合わせて型紙をつくって切って使ったり、プリントして自分だけの1枚を趣味でつくったりして、さんざん着ていましたね。
あと、大抵のアパレルショップにはボーダーが置いてあるけど、流行に合わせて探していた色がなくなってしまったりする。ファストファッションや海外のブランドをずっと着ているのもつまらないし、日本のボーダーの定番が欲しいと思ったんです」

定番。シンプルだからこそ奥が深い。小栁さんは、ボーダーの定番をどう定義し、生み出したのか。

ボートネックだけでも、ボーダーのパターンは6種類、配色(2色)はそれぞれ12色+新色数種類から組み合わせられる。
「例えば、バンドを始める時って、みんな好きな音楽をコピーするじゃないですか。僕は音楽が好きだから、それと同じように徹底的に好きなブランドをコピーしたんです。セントジェームスのピッチはすごくいいし、同じことをやっても負けるに決まっている。だから、理想の着心地だとか、日本人に合うサイズ、長く着られる品質の良さといったところを、こだわっていきましたね」

レコードが棚にズラリと並び、BGMもパンクやロックが流れる。

ビートルズの名盤「アビイ・ロード」をオマージュしたブランドイメージ写真。小栁さんは、スタッフたちを「ロックバンドのメンバー」と呼ぶ。ラボではみんな異なる配色のボーダーを着ている。

ボーダーは「メディア」

ファッションブランドやクリエイター、アーティスト、芸能人にもG.F.G.S.のファンは多く、コラボレーションも行っている。BEAMS、JOURNAL STANDARD、groovisions、イラストレーター・大塚いちお、インスタグラムの夫婦リンクコーデで話題になったbonponなどが、ボーダーでそれぞれの“らしい”デザインを生み出す。

漫画家・江口寿史さんとコラボしたときの生原画。
「G.F.G.S.では、ボーダーカットソーを音楽的につくるということを心がけています。僕らが用意するのは基本的なメロディというか、3コードの単純な曲だけ。コラボをする方が、そこにリミックスをすればいい」

「ボーダーは自分たちの思いを伝えるメディアなんです」と小栁さんは話す。「つくっている服のアイテムはボーダーばかりですが、クリエイティブの思考は多岐に渡っています」。たしかに、コラボレーションのほかにも、オリジナルマガジンの発行、音楽レーベルの立ち上げなど、G.F.G.S.のクリエイティブの幅の広さがそれを物語る。

「野菜農家さんがつくった野菜と一緒にプロフィールを載せていたりするけど、僕はあまりピンとこなくて。産地は分かる。でも、その人が一体何なんだということを伝えきれるわけじゃない。服づくりのほかにも、本やレーベルといった、つくり手のその人らしさ、そのブランドらしさを伝えられるメディアを使って表現することで、つくり手の姿を浮かび上がらせられるんじゃないかなと思ったんです」

地元ボランティア、カメラマン、デザイナー、ライター等がチームとなりつくり上げたインタビューマガジンを自費出版した。
ボーダーというメディアを駆使することで生まれた、新たなつながりも多い。最近では日産とのコラボで加茂市のファクトリーツアーの企画や、地元のプロサッカークラブ「アルビレックス新潟」の公式グッズの発売も実現した。

ファクトリーツアーでは、オリジナルカーで加茂市をめぐって市内の旅館に泊まり、G.F.G.S.のラボでボーダーカットソーのオーダーできる。
ボーダーは、個性。G.F.G.S.が個性を発信することで、受け取る側は、自分ならばボーダーを通じてどのような個性を発信できるのかと考える。お互いのクリエイティブが相乗して加速していく。

本当の意味で「メイド・イン・加茂」に

新ラボも駅前の商店街にある。
今や日本中でクリエイティブを展開するが、あくまで拠点は地元。シャッターが降りている店舗や空き家も多い商店街で、あえて活気を生むことに挑戦する。「大量消費・大量生産、海外製が流通する今だからこそ、原材料から国産、本当の意味での『メイド・イン・加茂』にこだわりたい」と小栁さんは語った。

「僕らの秘密基地です」(小栁さん)。奥には企業秘密の機械が。

自分だけのボーダーカットソーを持つということ

オンラインや全国に出張して行っている受注会でもオーダーはできるが、この日はあえてラボでオーダーをしてみた。ボディタイプ(ボートネック/クルーネック)、袖丈(長袖/七分袖/五分袖)、サイズ、カラーパターン(ボーダー幅、配色)を選ぶ。

4つの項目から選ぶことができるオーダーシート。

ラボや受注会ではカラーやカラーパターンのサンプルを見ながらオーダーできる。
かかった時間は1時間。サンプルを試着しながらじっくり選んで考え抜いたのは、シンプルなブルー×オフホワイトの定番幅の1枚。筆者は低身長のため、既製品だと袖が長くなりがちだけに、五分袖、七分袖が選べるのはかなり貴重だ。筆者が選んだのは七分袖。

完全受注生産のため1カ月ほど待たなければならないが、その期間もワクワクして楽しい。待望の1枚は、生地はしっかりとしているが柔らかい。洗濯を2回ほどしたが、形はきれいなままで、生地にこなれた感じも出てきた。

ORDER BORDER [boat-neck] 11,500円(税込)

自分で選びとることに意味がある

「ORDER BORDER」が届いてからの、周囲の反応が面白い。着用している1枚を指しながらボーダーが選べるという話をするだけで、誰もが「自分なら」という話を始めるのだ。

オーダーを受けて出来上がった商品が出荷を待っている。「どんな人かな、と一人ひとりの顔を思い描きながら手づくりしています」(小栁さん)
「自分で着るものなんだから、自分で選んだ方がいいと思うんです。失敗しても」と小栁さん。

誰かがつくった曲(ボーダー)を楽しむだけではない。ボーダーカットソーを自分でつくる。それはつまり、着る人が、自分で自由に、自分だけのオリジナルの1枚へと昇華していけるということだ。それは、個性の表現にほかならない。


※一部写真提供/G.F.G.S.

G.F.G.S.

ラボ3(新ラボ)
新潟県加茂市本町3−12 1F

公式サイト:https://www.gfgs.net