Vol.786

MONO

28 AUG 2026

貼り箱専門店「BOX&NEEDLE」が教えてくれた、“しまう”時間の愉しみ

「箱」といえば、モノを収めるための道具。主役はあくまで中身であり、箱自体はただの入れ物に過ぎない――。長くそう思い込んでいた筆者の考えを、大きく覆す出会いがあった。きっかけは、貼り箱専門店『BOX&NEEDLE(ボックスアンドニードル)』を訪れたこと。世界中から集められた紙でつくられたハンドメイドの箱たちは、どれもがアート作品のような佇まいで、ただ「モノをしまう」だけの行為を特別なひとときに変えてくれる。今回、ブランドを立ち上げた代表の大西景子さんにお話を伺った。大西さんの言葉を通して、貼り箱が秘める深い魅力と可能性を紐解いていきたい。

現代の暮らしにリンクする伝統工芸「貼り箱」

昔から職人の手作業によって作り続けられてきた工芸品「貼り箱」
そもそも「貼り箱(はりばこ)」とは、厚手の紙で作った芯材に、装飾用の紙や布を貼り合わせてつくる化粧箱のこと。古くから職人の手作業によって生み出されてきた工芸品だ。

BOX&NEEDLEは、そんな貼り箱の美しさに魅せられた大西景子さんが立ち上げた、世界初の貼り箱専門店。ルーツにあるのは、大正時代から続く京都の老舗紙箱メーカー「マルシゲ紙器」だ。家業である同社のブランディングに携わる中で貼り箱の奥深い魅力に気づき、その価値を広く伝えるべく、店舗をオープンしたという。

紙の柄ひとつで表情を変える、貼り箱ならではの美しさ
店舗立ち上げの原動力を、大西さんはこう振り返る。

「箱は本来、商品を引き立てるための脇役です。ですが、良質で美しい箱には、中身の印象を高めたり、モノを愛おしむ気持ちを育んだりする力があります。箱そのものが人の感情を動かす存在なのだ、と気づいたことが、貼り箱に魅了されるきっかけとなりました。

箱の構造自体はとてもシンプルですが、纏う紙が変わるだけで表情も用途もガラリと変わります。その柔軟性の高さがあるからこそ、貼り箱は伝統工芸でありながら現代の暮らしやデザインともしなやかにリンクする。その大きな可能性に、強く惹かれたんです。」

世界各地から集められた紙が、箱に新しい表情と物語を与えてくれる

「紙」は、暮らしや風土を映し出す“メディア”

二子玉川にある「BOX&NEEDLE」二子玉川店
京都と東京の二子玉川に店舗を構えるBOX&NEEDLE。筆者は今回、二子玉川店へと足を運んだ。

店内に一歩足を踏み入れると、色とりどりの柄の華やかさに一瞬で目を奪われる。使用されているのは、イタリアやドイツ、ネパール、イギリス、インド、フィンランドなど、世界中から厳選された化粧紙だ。モチーフや質感が全く異なる紙の数々は、まるで「世界の文化の標本」を眺めているような心地にさせてくれる。

店内では、箱だけでなく紙も販売されている
「私は紙そのものというより、“紙だからこそできること”に魅力を感じているんです。」と大西さんは語る。

「紙には重さや質感、匂い、光があり、手に取って初めて伝わる情報がたくさんあります。世界中を巡るなかで気づいたのは、紙にはその土地の文化や価値観が如実に表れているということ。私にとって紙は単なる資材ではなく、その国の暮らしや風土を映し出す“メディア”なんです。」

色も柄も質感も異なる紙が並び、選ぶ時間そのものが楽しい
また、国内外のデザイナーや作家とともに作り上げるオリジナルペーパーもBOX&NEEDLEの看板商品。なかでも今のイチオシとして紹介してくれたのが、韓国を拠点に活動するイラストレーター、Kelly Belter(ケリー・ベルター)氏とのコラボレーション作品だ。

ソウルで活躍するKelly Belter氏とコラボして手がけたオリジナルペーパー
「彼女の作品は、一見シンプルなスタンプのようでありながら、一つひとつの図案に日常のささやかな記憶や情景が込められています。色彩が非常に美しいアーティストなので、発色の良さを追求し、和紙職人と何度も微調整を重ねながら仕上げました。一枚一枚手刷りだからこそ生まれる揺らぎが、いい味を出しています。」

店内では貼り箱はもちろん、紙を一枚単位で購入することも可能だ。気に入ったデザインを額装し、ポスターのように飾るのもおすすめしたい。

切手をモチーフにしたデザインは、ポスターとして飾るのもおすすめ

職人の技術と知恵が光る、美しい貼り箱たち

ペンや裁縫道具、アクセサリーなど、身近な小物を美しく収められる貼り箱
『BOX&NEEDLE』は紙だけでなく、箱のバリエーションも実に多彩だ。シンプルな小物入れをはじめ、ペンケースやジュエリーボックス、壁や冷蔵庫につけて使えるマグネットボックス、さらにはフォトフレームまで――まさに枚挙に暇がない。そしてそのすべてが、職人の手によって生み出されているというから驚きだ。

背面が磁石でくっつく、便利な「マグネットボックス」
バックボーンにあるのは、京都で歴史を重ねてきた「マルシゲ紙器」。長く愛用されてきた機械を巧みに操り、職人の手感覚を融合させながら、美しさと機能を両立した箱を生み出し続けている。

実際に手にしてみると、素材が紙であることを忘れてしまうほどの丈夫さ、そしてその凛とした佇まいに驚かされる。さらに柄の出方の美しさや隅々の仕立てからも、職人の妥協のない手仕事が見て取れる。

箱の裏に箔押しされたロゴも美しい
貼り箱職人たちへ寄せる想いを、大西さんはこう語ってくれた。

「私は職人のことを、単に『技術を持つ人』というだけでなく、『考え続ける人』だと思っています。ものづくりの現場では、どうすればより美しく仕上がるかを常に考えながら手を動かしています。その思考の積み重ねこそが、技術であり、知恵になるんです。私はそんな“手から生まれる知恵”こそ、未来へ残していくべき大切な文化だと信じています」

陶器の街である京都六原に拠点を置いていた「マルシゲ紙器」。『BOX&NEEDLE』では器にあわせた箱も限定発売している

つくる喜びも、持ち帰れるお店

二子玉川店では、店舗の2階で毎月定期的にワークショップを開催
店舗で定期的に開催されている「ワークショップ」も、BOX&NEEDLEを語る上で欠かせない魅力の一つだ。講師から手ほどきを受けながら、自分の手で貼り箱を一から作り上げることができる。

作れるアイテムは、店頭の人気アイテムからワークショップ限定のデザインまで様々。難易度も選べ、ハサミを安全に扱える年齢であれば子どもでも参加が可能だという。

なぜ、ショップでありながら「作ること」を体験させる場にこだわるのか。大西さんは「技術を伝えること以上に、“手を動かしてつくる楽しさ”を知ってほしい」と想いを語る。

定番の人気商品となっているマグネットボックス
「ブランドを立ち上げた当初の目的は、貼り箱という伝統工芸や職人の存在を知ってもらうことでした。ですが、活動を続ける中でその想いは少しずつ変化してきたんです。今はただ箱を売ること以上に、『人が自らの手を動かし、工夫し、何かを生み出す文化』そのものを広げたいと思っています。ものづくりを職人だけのものにするのではなく、誰もが何かを創造し、その価値を実感できる社会の方がずっと豊かだと感じるからです」

多数の柄がある扇子は、夏の人気商品。贈り物や海外に住む方へのお土産によく選ばれる
「自分で作った箱には、驚くほどの愛着が湧きます。試行錯誤しながら作れたときの達成感や、工夫する面白さなど、ワークショップではそうした『つくる喜び』を持ち帰っていただけたら嬉しいですね。そして今後は国内にとどまらず、貼り箱を通して世界中の人と『手から生まれる知恵』や創造の楽しさを共有できるコミュニティを育てていきたいと考えています。」

ワークショップの開催日程や詳細は公式ホームページやインスタグラムで随時案内されている。気になった方は、ぜひ一度チェックしてみてはいかがだろうか。

店内に並ぶ多彩な貼り箱。暮らしの中で使いたくなる一箱との出会いが待っている

箱ひとつで、毎日はもっと楽しくなる

BOX&NEEDLEの貼り箱は、日々の片付けという何気ない行為を「モノと向き合う豊かな所作」へと変えてくれる。宝物を収めるとき、大切な手紙や写真を整理するとき――こだわり抜かれた箱を手にするだけで、日常のふとした瞬間に誇らしさと愛おしさが込み上げてくる。

“しまう”ことを、暮らしを楽しむ時間へと変えてくれるBOX&NEEDLE
とっておきの一箱をじっくり探すのも、ワークショップで“自らの手で作る喜び”に触れてみるのも良し。BOX&NEEDLEの手仕事を通して、あなただけの「“しまう”時間の愉しみ」を見つけてみてほしい。

貼り箱専門店 BOX&NEEDLE

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