Vol.79

KOTO

11 NOV 2019

<SERIES> アーティストFILE vol.5 今に固執せず、自分に向き合う。川﨑真奈

東京生まれ。法政大学経営学部卒業。F-school of Illustration・山田博之イラストレーション講座6期受講。2013年の初個展以来、東京を中心に活動。雑誌の挿絵や装画を主に人物や静物、風景など幅広いジャンルの絵を描く。「なんでもできる、自分だけの日曜」をテーマに描き下ろしてもらった。

「何でもできる、自分だけの日曜」

フリーランスの休日

「何時にどこに行くか、一日中家に居るのか、これから犬と散歩に行くのか、自分でもこの絵の人物がこれから何をするか分からない、特に予定のない日曜日を描きました」

テーマを聞いて最初に浮かんだのは「ひたすらだらだらしたい」だったそう。週休二日の会社勤めではないフリーランスのイラストレーターとして活動する彼女。休みと仕事のスイッチを上手く切り替えられず、中途半端にだらだらしてしまうそうだ。

「仕事柄会社に行くという習慣もないし、休みと仕事の境目がはっきりしていません。きちんと予定を立てて管理していないと、だらだらしてしまうこともあります。でも、だらだらしながらも、SNSでの発信や仕事につながる何かをやらなきゃと、どうしても思ってしまって、罪悪感なく一日家でリラックスするということがなかなか出来ないんですよね。オンとオフの境目が曖昧になってしまうので、本を読んだり、犬と散歩に出かけたり、色々なしがらみを忘れてとにかく思いっきりのんびりしている自分をイメージして描きました」

しっくりくる資料が見つからない時は、自分自身を素材にして資料を作る。ソファーに寝そべる女性は、自分が実際にポーズをとった写真を見ながら描いたそう。
「描き始めた頃から今でも描くのが苦手です」と話す人物画。今の雰囲気が生まれたのは、イラストレーションスクールに通っていた時だった。

「イラストレーションスクールに通っていた時、『人物を描くときは顔の中心から描くといいよ』と先生に教わってから、私は鼻の穴から描いています。輪郭から描くと妙に形を上手く整えてしまって、上手くデフォルメが出来なかったのですが、鼻の穴から描くことによって、良い意味でバランスが崩れて個人的に描きやすくなりました。その描き方で描いた絵を、周りから褒めてもらえたことをきっかけに今も続けています」

ハードルの高さを楽しむ

人物画、風景画、静物画など様々なタイプの絵を描く彼女に得意な分野の絵を聞いてみた。

「得意意識を持っているものはなくて、全部苦手なのかもしれません(笑)。中でも人物画が一番苦手です。でもその分チャレンジしがいがありますし、一番楽しいのも人物画です。1ミリ単位で表情が変わってしまうので神経を使いますし、顔が決まらないと次に進めないので、描いているときに良い意味で緊張感も生まれます。自分にとってハードルが高い方が楽しいですね」

人物画を描くときは最初にモデルを決めることから始める。最初にモチベーションが上がるものを土台として決めておかないと、描いていて気持ちが乗らないことがあるのだそうだ。前回の個展のために描き下ろした「セーターはネイビー」は、モデルそのものに惹かれて描き始めたと言う。

「外国人のモデルさんで、何とも言葉では言い表せない雰囲気を持った人でした。出来上がりは実際の写真と髪型も服も違います。似せて描くことよりも、彼女の何を考えているか分からないような、ちょっと怪しくて妙に引き込まれるオーラを絵に表現するにはどうしたら良いだろうと、彼女の魅力に集中しながら何回も描き直して仕上げました」

「基本的に描き込みたくなっちゃう性格で、どこまで描いたら正解なのか分からなくなる時もあります。逆にこの作品は、他の作品よりも手数を少なくシンプルにし過ぎて、雑に思われるかなと思っていましたが、思いのほか好評でした。魅力を感じてすごく描きたい!と思って描いたものだったから、自分の気持ちが伝わったんだなと思いました」

「セーターはネイビー」

自然と今の道を選んでいた

「最初から絵を仕事にしたいと思っていたわけではありませんでしたが、それは夢というよりももっと自然に、自分は何かを作ったり、手に職をつけるんだという思いが頭の中にずっとありました」と話す。その影響は彼女の両親にあると言う。

「父親はロシア文学の教授で、今は退職して家で物書きをしたりしています。母親はロシア語の通訳をしたり文章を書いたりしていました。2歳の頃に1年ほどロシアに住んでいたこともあって、その頃の記憶は今でもうっすらと残っています。会社勤めではなく、半分を家で何かを作ったりする仕事をしていた両親を見ていたので、自分が会社員として働くイメージが湧きませんでした」

「フリーランスになる前に、一度就職してから転向した方がいいかなと本当は思っていたのですが、大学3年生の就活の時期の直前に体調を崩してしまって、就職活動が出来ませんでした。’’会社で働く’’ということが、苦手だろうなと自分でも思っていたからこそ、一回経験しておきたかった気持ちはあります。でも向いていない自信があるので、そうゆう運命だったのかもしれません(笑)。それからいきなりフリーランスで始めてみましたが、作風が定まらなくてアルバイトをしながらイラストレーションスクールに通っていました」

「子供の頃は人見知りで、変な絵や4コマ漫画など絵を通して友達と仲良くなることが多かったです。その延長線でスクールでも同じような絵を描いていましたが、実際は仕事にはなりませんでした(笑)。仕事につながる絵を教わるというよりは、画材と場所が提供されて、自主的に描くという自由なタイプのスクールで、結局5年間ほど通って、絵を仕事にするのにも時間がかかりましたね」

仕事を意識して日常的なものを描き始めたのは、人物画よりも静物画が先だったそう。前回の個展ではひとつのテーマから人物、静物風景を連想して制作した。

「個展のテーマが’’風の音’’だったので、心地良い風が吹いていそうな、イメージで思いついたのがレモンスカッシュでした。ストックしている資料の中にかわいいなと思っていたものがあったので、それを参考に描きました。人物画は神経を使って集中して描くので気疲れする時もありますけど、食べ物の絵はもっとリラックスして気持ちを楽に描いています」

「レモンスカッシュ」

今、自分に出来ること

前回の個展を開催したのは、表参道にあるHBギャラリー。これまでに2回個展を開いたHBギャラリーは彼女の憧れのギャラリーだと言う。

「初めてHBギャラリーで個展をした時はすごく緊張しました。憧れていたし嬉しい気持ちちがある反面、今まで展示をされてきた方もそうそうたる面々だったのでプレッシャーも感じていました。『大丈夫なのかな?』って。今でも個展をやる時は不安になる時もありますけど、『今の私が出来ることはこれだから』と思って開き直ります」

「後から昔の作品を見返すと画力も乏しいし、枚数をこなしていない絵だったなと自分の作品を見て思うことがあります。でも枚数や展示をこなすごとに、ちょっとずつ成長してきました。自分では恥ずかしいと思うような昔の下手な作品を面白いと褒めてもらえたりして、自分で自分の評価をつける必要はないんだなと思います」

「個展期間中は有名なデザイナーさんなどから、絵についてご意見を頂く時もあります。皆さんそれぞれ好みがあり、中には私の絵は好みじゃないかもしれないと感じることもありますが、そこを超えても納得させる絵を求めて、色んな意見をどんどん吸収していきたいです」

ゴールはない、もっと成長できるから

マイペースに自分の出来ることを考え、自分自身を啓発し続ける彼女に今後の展望を聞いた。

「今の作風の完成度ももっと高めたいですし、他のスタイルも試してみたいです。仕事として汎用性の高い絵と、絵としての強さがあるものはまた別物だと思うので、仕事としての絵の幅も広げていきながら、作品としての魅力も高めていけるように描いていきたいです。そのふたつを並行することで、結果的に仕事自体の精度も魅力度も上がるのかなと思っています」

「自分の完成形はまだないと今は考えています。自分の中でまとまり過ぎずに、もっと変化させて成長していきたいと思っているので、ある意味今の絵に固執していないですね。完成していない自分には、まだまだ伸び代があると思っています」

話を聞いていると、常日頃からきちんと自分自身と仕事に向き合っていることが伝わってくる。変わることを恐れない向上心も持っている。もしかしたら今の作風とは全く違う彼女の作品も見ることが出来るかもしれない。今後の彼女の変化と活躍に注目だ。

Information

mini exhibition

2020/1/10(金)〜2020/1/19(日)  *close 火曜日・水曜日 *展示会は終了しています

@ondo stay&exhibition
東京都江東区清澄2-6-12
https://ondo-info.net/

Official Website:http://www.milmil.cc/user/mana/
Instagram:https://www.instagram.com/mana_k132/?hl=ja

RELATED

RELATED