小説、児童文学、詩歌の装画や挿絵などを中心に活動するイラストレーター・漫画家。主な仕事に漫画『107号室通信』、『光と窓』(共にリイド社)、『ナニュークたちの星座』(文:雪舟えま、アリス館)の挿絵、モンロワールCM原画などがある。現在イースト・プレスのWeb漫画サイト「マトグロッソ」にて漫画『幻想旅行記』連載中。多岐にわたって活躍するカシワイさんに「パワー」をテーマにして描き下ろし制作を依頼した。
小さな喜び、大きなパワー
青い朝顔が一面に咲き渡る作品を見て、自分が「パワー」を貰うものは何かとずっと考えていたと、彼女は今回の制作について話し始める。
「私がパワーを貰うのは、『日常生活の小さな喜びや、小さな気づきから様々な想像を膨らませること』だと感じました。今、久しぶりに朝顔を育てているのですが、世界の動きに関わらず、伸びやかに成長する朝顔の生命力に心が動き、もし緑のカーテンが出来るまで育ったらと想像してこの作品を描きました」
彼女の小さな喜びや気づきは、本や映画、舞台など日常で触れる文化はもちろん、散歩をしている時にも見つけるそうだ。
「散歩の途中に、良い建物や路地、綺麗な木漏れ日の形などを見つけて『あぁ、いいな。素敵だな』って思って、自分の感情が動いた時に絵を描きたくなることが多いです」
建物なら、昭和に建てられたような古くて生活感が出ているもの。路地なら狭くてごちゃごちゃしているようなところに惹かれるそう。いいなと思ったものは記憶したり、写真に撮ったりして、描く時にディテールの参考にしていると言う。
「自分の感じたものに近い写真が撮れる時もありますが、そのいいなと思ったものを表現するアウトプットの手段として、一番に絵を描きたいと思うんです。自分の見ている形に近づいた絵が描けた時は嬉しくなりますし、描くことが一番気持ちいいというか。小さなパワーが私の絵を描く原動力になっています」
「私がパワーを貰うのは、『日常生活の小さな喜びや、小さな気づきから様々な想像を膨らませること』だと感じました。今、久しぶりに朝顔を育てているのですが、世界の動きに関わらず、伸びやかに成長する朝顔の生命力に心が動き、もし緑のカーテンが出来るまで育ったらと想像してこの作品を描きました」
彼女の小さな喜びや気づきは、本や映画、舞台など日常で触れる文化はもちろん、散歩をしている時にも見つけるそうだ。
「散歩の途中に、良い建物や路地、綺麗な木漏れ日の形などを見つけて『あぁ、いいな。素敵だな』って思って、自分の感情が動いた時に絵を描きたくなることが多いです」
建物なら、昭和に建てられたような古くて生活感が出ているもの。路地なら狭くてごちゃごちゃしているようなところに惹かれるそう。いいなと思ったものは記憶したり、写真に撮ったりして、描く時にディテールの参考にしていると言う。
「自分の感じたものに近い写真が撮れる時もありますが、そのいいなと思ったものを表現するアウトプットの手段として、一番に絵を描きたいと思うんです。自分の見ている形に近づいた絵が描けた時は嬉しくなりますし、描くことが一番気持ちいいというか。小さなパワーが私の絵を描く原動力になっています」
ポツンと一人、絵の空間を感じてみて
小さな喜びのひとつに挙げられた木漏れ日は、作品の構図を決める要素にもなっている。なぜ、上から人物と朝顔を見ているような構図になったのだろうか。
「窓ガラス全面に広がる朝顔と床に落ちている木漏れ日が描きたかったので、両方見える角度を探しました。いくつか案を考えている時に、この広い空間の中に人が小さく居る感じがいいなと思って、この構図になりました」
今回の作品のように「遠くから見つめているような構図」が彼女の作品には多い印象がある。絵の中の人物は、住宅街や広野、宇宙のような場所など、様々な空間に“ポツンと”存在している。その空間と人物の関係性について聞いてみた。
「広い空間の中にポツンと居る人自体には、そんなに個性を持たせていないことが多いですね。絵を見る人も、その空間に居るように感じられる絵が描けたらいいなと思っています」
下のふたつの作品は、家の中にはそれぞれの暮らしがあり、その人達と実際にすれ違うわけではないけれど、その様々な暮らしの中にポツンと居るような感じを描いたそう。
「窓ガラス全面に広がる朝顔と床に落ちている木漏れ日が描きたかったので、両方見える角度を探しました。いくつか案を考えている時に、この広い空間の中に人が小さく居る感じがいいなと思って、この構図になりました」
今回の作品のように「遠くから見つめているような構図」が彼女の作品には多い印象がある。絵の中の人物は、住宅街や広野、宇宙のような場所など、様々な空間に“ポツンと”存在している。その空間と人物の関係性について聞いてみた。
「広い空間の中にポツンと居る人自体には、そんなに個性を持たせていないことが多いですね。絵を見る人も、その空間に居るように感じられる絵が描けたらいいなと思っています」
下のふたつの作品は、家の中にはそれぞれの暮らしがあり、その人達と実際にすれ違うわけではないけれど、その様々な暮らしの中にポツンと居るような感じを描いたそう。
小さな喜びのひとつに挙げられた木漏れ日は、作品の構図を決める要素にもなっている。なぜ、上から人物と朝顔を見ているような構図になったのだろうか。
「窓ガラス全面に広がる朝顔と床に落ちている木漏れ日が描きたかったので、両方見える角度を探しました。いくつか案を考えている時に、この広い空間の中に人が小さく居る感じがいいなと思って、この構図になりました」
今回の作品のように「遠くから見つめているような構図」が彼女の作品には多い印象がある。絵の中の人物は、住宅街や広野、宇宙のような場所など、様々な空間に“ポツンと”存在している。その空間と人物の関係性について聞いてみた。
「広い空間の中にポツンと居る人自体には、そんなに個性を持たせていないことが多いですね。絵を見る人も、その空間に居るように感じられる絵が描けたらいいなと思っています」
下のふたつの作品は、家の中にはそれぞれの暮らしがあり、その人達と実際にすれ違うわけではないけれど、その様々な暮らしの中にポツンと居るような感じを描いたそう。
「窓ガラス全面に広がる朝顔と床に落ちている木漏れ日が描きたかったので、両方見える角度を探しました。いくつか案を考えている時に、この広い空間の中に人が小さく居る感じがいいなと思って、この構図になりました」
今回の作品のように「遠くから見つめているような構図」が彼女の作品には多い印象がある。絵の中の人物は、住宅街や広野、宇宙のような場所など、様々な空間に“ポツンと”存在している。その空間と人物の関係性について聞いてみた。
「広い空間の中にポツンと居る人自体には、そんなに個性を持たせていないことが多いですね。絵を見る人も、その空間に居るように感じられる絵が描けたらいいなと思っています」
下のふたつの作品は、家の中にはそれぞれの暮らしがあり、その人達と実際にすれ違うわけではないけれど、その様々な暮らしの中にポツンと居るような感じを描いたそう。
表現の根底に居るひとり
住宅街のような空間とは対照的に、下の作品のような広々とした空間に居る絵も多く発表している。これは「広い世界にポツンと居るような孤独感」を描いたものだ。
こんなに広々とした野原、多くの人は近所には無いだろうから、実体験としての共感は呼びにくいかもしれない。でもこの絵を見ていると、幼い頃、すぐそこのショッピングセンターが途方もなく広く感じた時のように、そういえば自分も「広い世界にポツンと居るような孤独感」を何かしら感じたことがあったのを思い出す。
こんなに広々とした野原、多くの人は近所には無いだろうから、実体験としての共感は呼びにくいかもしれない。でもこの絵を見ていると、幼い頃、すぐそこのショッピングセンターが途方もなく広く感じた時のように、そういえば自分も「広い世界にポツンと居るような孤独感」を何かしら感じたことがあったのを思い出す。
彼女の様々な作品を見ていて、共通して感じたのは「誰でも感じる日常の中にある孤独」。生きているなかで瞬間的に訪れる孤独と喜びが、絵の中で混ざり合っているような気がする。実際にそういうものを描いている意識はあるのか聞いてみた。
「私、人は基本的に独りだと思っているんです。独りでも世界は美しくて、その中で時々人と触れ合ったり離れたりすることって、すごく美しいことだなと思います。その考えが頭の中にあるので、自分の描きたいものを描くと、結果的に孤独感を感じるものになっているのかもしれませんね。みんなでワイワイする楽しい時間よりも、一人で居る孤独みたいなものを描きたいです」
悲観的なイメージが伴う「独り」や「孤独」でも彼女の作品になれば、どこか儚げで優しい雰囲気に包まれる。独りでいることも触れ合うことも、どちらも美しく感じることが出来るのは、彼女が“世界にポツンと居る”彼女自身を俯瞰することが出来るからなのかもしれない。否定や拒否をせず、誰も傷つけないようなゆっくりと優しい話し方をする彼女を見てそう感じた。
「私、人は基本的に独りだと思っているんです。独りでも世界は美しくて、その中で時々人と触れ合ったり離れたりすることって、すごく美しいことだなと思います。その考えが頭の中にあるので、自分の描きたいものを描くと、結果的に孤独感を感じるものになっているのかもしれませんね。みんなでワイワイする楽しい時間よりも、一人で居る孤独みたいなものを描きたいです」
悲観的なイメージが伴う「独り」や「孤独」でも彼女の作品になれば、どこか儚げで優しい雰囲気に包まれる。独りでいることも触れ合うことも、どちらも美しく感じることが出来るのは、彼女が“世界にポツンと居る”彼女自身を俯瞰することが出来るからなのかもしれない。否定や拒否をせず、誰も傷つけないようなゆっくりと優しい話し方をする彼女を見てそう感じた。
言葉より表情より、空気で
2016年に短編漫画集『107号室通信』、今年3月には『光の窓』を出版し、漫画家としても活動している。一枚の絵も漫画も、思い浮かべた描きたいモチーフや場面からアイデアを広げていくそう。様々な種類の公衆電話を貸し出す物語『電話番』(『107号室通信』収録)を例に、どのように漫画のストーリーを考えているのか教えてもらった。
「描きたいモチーフとして公衆電話が頭に浮かんで、壁一面に公衆電話が並んでいるのはどうだろうと思い、そこから『何で並んでいて、何に使うのかな?』って考えて、ストーリーをつくりました。大まかな流れをテキストで考えたら、ネームでコマ毎の場面の構図を考えます」
彼女の漫画はセリフが少ない。絵だけでその状況や主人公の心情を説明していることが多く、1ページ丸々セリフなしで絵だけで進んでいくところもある。
「表情の表現や、セリフを作るのが上手な方もいると思いますが、私は表情を細かく描こうとは思っていなくて、それよりも私が描きたいのは『周りの空気みたいなもの』です。なので、セリフも少なめでギリギリ分かってもらえたらいいな、くらいで描いています」
セリフと人物の表情の描写が少ない代わりに、蛇口から水滴が垂れる様子や、水溜りに映る景色とその上を歩いていく人など、見落としがちな日常に溢れたシーンが丁寧に描かれている。それらは確かに『周りの空気みたいなもの』になっていて、物語の気配をつくっている。彼女がいつも日常で小さな喜びを感じて、小さなことに気付ける心を持っているから、その「形ないもの」を表現出来るのだと思う。
「描きたいモチーフとして公衆電話が頭に浮かんで、壁一面に公衆電話が並んでいるのはどうだろうと思い、そこから『何で並んでいて、何に使うのかな?』って考えて、ストーリーをつくりました。大まかな流れをテキストで考えたら、ネームでコマ毎の場面の構図を考えます」
彼女の漫画はセリフが少ない。絵だけでその状況や主人公の心情を説明していることが多く、1ページ丸々セリフなしで絵だけで進んでいくところもある。
「表情の表現や、セリフを作るのが上手な方もいると思いますが、私は表情を細かく描こうとは思っていなくて、それよりも私が描きたいのは『周りの空気みたいなもの』です。なので、セリフも少なめでギリギリ分かってもらえたらいいな、くらいで描いています」
セリフと人物の表情の描写が少ない代わりに、蛇口から水滴が垂れる様子や、水溜りに映る景色とその上を歩いていく人など、見落としがちな日常に溢れたシーンが丁寧に描かれている。それらは確かに『周りの空気みたいなもの』になっていて、物語の気配をつくっている。彼女がいつも日常で小さな喜びを感じて、小さなことに気付ける心を持っているから、その「形ないもの」を表現出来るのだと思う。
名無しの意味
ここまで作品を見てきて、作品にタイトルがついていないことに気付いただろうか。描き下ろしてもらった作品のタイトルも聞いてみると「特になしで大丈夫です」と答える。彼女の作品は全て『無題』なのだ。
「名付けると作品の枠が決まってしまう気がしますし、絵を描いたところでもう満足しているので、そこから更に付け加えなくてもいいかなって。描いた後は見る人が好きにとってくれたらと思います」
下の絵は、同じく公衆電話というモチーフから描いた作品。タイトルというヒントがないことによって、自由な捉え方で作品を見ることが出来る。この絵のストーリーを読み進める前にどんな絵なのか、少し想像してみて欲しい。
「名付けると作品の枠が決まってしまう気がしますし、絵を描いたところでもう満足しているので、そこから更に付け加えなくてもいいかなって。描いた後は見る人が好きにとってくれたらと思います」
下の絵は、同じく公衆電話というモチーフから描いた作品。タイトルというヒントがないことによって、自由な捉え方で作品を見ることが出来る。この絵のストーリーを読み進める前にどんな絵なのか、少し想像してみて欲しい。
「長い横断歩道を渡りきれなかった人用に、真ん中に安全地帯がありますよね。あそこに残されると、両側からワーッと走ってくる車の流れが川みたいに感じて、残され島に居るみたいだなって思っていて。そこにもし公衆電話があったら、かかってくる電話は同じように、島に残された人からくるんじゃないかなと思って描いた絵です。夜に島に残されると、暗闇に車のランプの光だけが流れていくから、川っぽくて綺麗なんですよ」
この先も見たい、その世界観
何気ないところから得る発想、そこから広げていく想像力の豊かさには驚かされっぱなしだった。しかし、彼女は終始謙虚に「好きなものをいつも見ているのと、本や映画などの日常で触れている素敵なものに色々と影響を受けているだけです」と言う。
物怖じせずに、ひとつひとつの言葉を大事に噛み締めて、作品について語ってくれるその姿からは誠心誠意、絵に向き合っている姿勢が伝わる。
最初は趣味で発表していたイラストだったが、色々な縁が繋がっていって、本格的にフリーランスのイラストレーターとして活動を始めて2年。これまでに様々な仕事を手掛けてきた彼女に今後の展望を聞いた。
「もっと沢山イラストの仕事もしたいですし、長編の漫画も描きたいですね。イラストも漫画も両方やらせて頂けて、本当に有り難いです。今後は絵本などの違う分野もやってみたいなと。今やっていることの数を増やしつつ、新しいことにも挑戦していきたいです」
豊かな想像力によって、イラストと漫画に吹き込まれるストーリーや周りにある空気。小さな喜びや気づき、孤独を味わうことを大切にしている彼女だからこそ描ける名前のない作品たちは、無限の想像を私たちに見せてくれる。これからも彼女が創り出す世界観に大注目だ。
物怖じせずに、ひとつひとつの言葉を大事に噛み締めて、作品について語ってくれるその姿からは誠心誠意、絵に向き合っている姿勢が伝わる。
最初は趣味で発表していたイラストだったが、色々な縁が繋がっていって、本格的にフリーランスのイラストレーターとして活動を始めて2年。これまでに様々な仕事を手掛けてきた彼女に今後の展望を聞いた。
「もっと沢山イラストの仕事もしたいですし、長編の漫画も描きたいですね。イラストも漫画も両方やらせて頂けて、本当に有り難いです。今後は絵本などの違う分野もやってみたいなと。今やっていることの数を増やしつつ、新しいことにも挑戦していきたいです」
豊かな想像力によって、イラストと漫画に吹き込まれるストーリーや周りにある空気。小さな喜びや気づき、孤独を味わうことを大切にしている彼女だからこそ描ける名前のない作品たちは、無限の想像を私たちに見せてくれる。これからも彼女が創り出す世界観に大注目だ。