フランスで暮らす人々は本当にミニマルに暮らしているのか?
一方で気になるのが、フランスに暮らす一般的な人々が実際にどのようなライフスタイルで暮らしているのかということ。そこで筆者はフランスのパリ、リール、ブルターニュのフランス人宅でのホームステイした他、フランス人やフランスに長く暮らす日本人など、5週間かけて数多くのお宅に訪問し、彼らのライフスタイルに触れてきた。
それらの体験から共通して見えてきたのは、「自分らしい幸せ」を追求する姿勢だ。なにが幸せかを常に問い、その目的に到達するためにどう暮らすか。ミニマルな視点を持って暮らしの取捨選択している。その感覚はどうやら日本とは少し違うようだ。
引っ越しの時に大型家具を買わない・捨てない
すると、「初期費用で必要なのは敷金くらいで、他はそうでもない」という。それもそのはず、フランスでは家具付きの賃貸物件がほとんど。引っ越す時は家具をそのまま置いていき、また別の家具付き物件に住むため、冷蔵庫や洗濯機、ベッドなどを運ぶ必要もないし、新しく家に合うものを買いそろえる必要もない。引っ越してからすぐに、快適に暮らし始めることができるだろう。
「こちらの方が環境に優しいし、身軽に引っ越しすることができるよね」と語るのは、親日家のフランス人の友人夫婦。家具家電の廃棄がもたらす環境への影響と、廃棄、購入、引っ越しにかかるお金や労力を考えれば、確かにベストな解決方法である。
家具家電はあるもので。あとはどう部屋を自分らしくアレンジしていくかが、腕の見せどころなのだ。
お気に入りのアイテムは長く大切にする
どの家も、モノがありながらどこか整っていて、その人らしさが見える部屋だった。お気に入りの置物を置き、壁には家族との写真やアートをたくさん飾る。彼らは自分らしさを表現するアイテムを見せるために、ベーシックなアイテムにどのようなものが必要か、自分の感覚でシンプルに取捨選択できるのだ。
一方で、気に入ったものなら5年10年と長く使い続けるのも彼らに共通していた。ある時フランス人の友人がだいぶ使い込まれた鞄を持っていたので、そのことに触れると、彼は「これは別に高いものではなかったけれど、本当に使いやすくて高校生の頃から使っているんだ」と笑顔で話した。
お気に入りのものは寿命が来るまで使い切る。彼らにとって、何が自分にとって大切なものなのかを測る基準が身についているようだ。
好きなことに徹底してこだわる
日本でもようやくライフ・ワークバランスが考えられるようになり、残業を美徳と考える文化も薄れつつある一方で、フランス人は残業を嫌う。20時まで残業した日には、「あーあ、今日は本当によく働いたよ!」と嘆き、次の日にもわざわざその事を言うほどだ。
もちろんフランスにはハードワーカーもたくさんいる。しかし、彼らもバカンスはしっかりとる。夏は平均して3週間ほど、クリスマスシーズンも2週間ほどバカンスの期間があるのだ。「フランスのバカンスが長くなったのは、人間らしく生きるためにストライキなどで市民が戦ってきた結果だ」とフランス人の友人は誇らしげに言う。
日本でも元号が変わった2019年のゴールデンウィークは、10連休となった。多くの日本人が休む大切さを知った一方で、長い休暇になにをすればいいのか途方に暮れた方もいたことであろう。
多くのフランスに住む人々は、自分たちが勝ち取ってきた長い休みに、なにをすべきか知っている。趣味が音楽なら自分らしく音楽を楽しめる最適な環境を見つけようとするし、船が好きなら海の近くに住みボートを買って毎週末船の冒険を楽しむ。自然豊かな環境に囲まれて食事を摂るのが好きなら、広い庭とテラスがついた家に住み、暖かい日は朝食から外で食べる。
自分らしく生きるために好きなことにこだわり、そこにワークスタイルをフィットさせていく。そして生活に幸せを感じない時は疑問を持ち、状況を改善するために頭を働かせて努力する。彼らはそんなライフスタイルの作り方をしているようだ。
家で過ごす時間・人と過ごす時間を大切にする
とはいえ普段の彼らは平日の夜は基本的に家に帰り、ご飯を作ってゆっくりと家族や友人、自分の時間を過ごす。意外と質素な暮らしが基本だ。一方で夜になっても明るく気候のいい春や夏は、仕事帰りにカフェやバー、天気がいい日には広場やセーヌ川沿いへ行き、同僚や友人とアペリティフ(Aperitif)を飲み、おしゃべりや議論に興じる。
また、友人や家族とたくさん話しのんびりと過ごしたい時、彼らは週末に食事会を開き気軽に人を家に招く。採れたての有機野菜や新鮮な肉や魚をマルシェや専門店で手に入れて、自作の料理でおもてなし。呼ばれた人は、ワインを手土産に持っていき、ゆっくりと食事の時間を楽しむ。
日本で家に人を招く・招かれるというのはなかなか気を使うものだが、フランスでのその時間は穏やかでありながら充実していた。家で過ごす時間も大切にしていることで、本質的な生きる喜びを見つけられるのかもしれない。
暮らしを豊かにする。ミニマルな視点を取り入れよう
ミニマルライフを実践するための最初のステップ。それは「自分にとって本質的に何が幸せなのか?」を問いかけるということだろう。