Vol.398

09 DEC 2022

〔ZOOM in 渋谷富ヶ谷〕心の健康は日常でつかうものに宿る。lupus|ルプス

世界中でカジュアル化が進むビジネスファッションのスタイル。一昔前の定説だった“スーツ×革靴”が、時代が変化するにつれ“スーツやジャケパンにスニーカー”も選択肢に加わり、違和感なく世間に浸透し、市民権を得たように思える。しかし、まだビジネスカジュアルの模範とされる商品が提唱されているわけではない。多くの企業が服だけに限らず、靴も同様にカジュアルダウンを推奨しているが、いざ選びに大手のスニーカーショップへ行っても何が正解なのか分からずに困惑してしまう。そんな中、奥渋を抜けて少し歩いた、代々木上原にあるセレクトショップ「lupus(ルプス)」がそんなお悩みを解決してくれると聞いて行ってみることに。そこには、日常生活に彩りを与えてくれる数々の逸品が揃っていた。

落ち着いた雰囲気でゆっくりとした時間を過ごすことができる街

静かで時間の流れが穏やかに感じる代々木上原の風景
交通の利便性の高い代々木上原エリアは、多くの財界人が住む高級住宅街だ。商店街が点在し生活しやすいことはもちろん、グルメスポットやユニークな店舗が数多く並ぶ。休日には多くの人で賑わうようになったが、渋谷や新宿、下北沢といった繁華街からほど近いにも関わらず、平日の人通りはさほど多くなく、穏やかな空気感が漂う。街行く人はエレガントに見えるし、どこかにゆとりを感じる街なのだ。

小田急線とメトロ千代田線の2路線が通っており、新宿や渋谷など都心まで自転車でもアクセスしやすい
代々木上原の駅を降りて徒歩5分ほどで到着したのは、「lupus(ルプス)」というドメスティックのスニーカーを中心とした服飾雑貨やお皿やコーヒーカップ、植物などの幅広い種類のライフスタイルグッズを取り扱う、個性的なセレクトショップだ。オーナーの髙橋さんに出店の経緯や、どんなこだわりを持って品揃えをされているかなどを聞いてみた。

サラリーマンの時に感じた悩みがビジネスアイデアの種に

lupus 外観
髙橋さんは、バッグのデザイナーから広告代理店のプランナーへ、そしてセレクトショップオーナーと一風変わった経歴を持つ人物だ。デザイナー時代は自由な服装で働くことは特に問題なかったが、広告代理店勤務の時にはセミフォーマル、いわゆる“ジャケパンスタイル”と呼ばれるファッションを求められていた。

「企業に広告プランを持ってプレゼンすることが多かったので、その際は少し綺麗目でスタイリッシュな服装を心掛けていました。ジャケットやパンツはストリートブランドからビッグメゾンまで数多くのブランドが出していたから選択することも難しくはなかったのですが、靴だけは何を履いたらいいのか分からなかったんです。着ている服との相性もあるし、移動も多いので機能性は重視しなければいけない、あとは『これはフォーマルと言えるラインかな』といったTPOに合ったスタイルのラインが曖昧で悩んでしまった時期があったんです」

lupus 店内
2017年にスポーツ庁から「FUN+WALK PROJECT(歩くことをもっと楽しく、楽しいことをもっと健康的なものに変えていくプロジェクト)」が提唱されて、それ以降は、一般的になってはきたものの、専門店があるわけでも、大手のスニーカーショップでも専門の知識を持ったスタッフやコーディネーターがいるわけでもない。自分が良いと思う商品を置いてある店を探すとなると何件も店を回るしかない。

カジュアルすぎず、革靴のようなタフでフォーマルな感じでもない。求めているのは“ちょうどいい”塩梅の靴だった。

優しい自然光が入り込む店内、窓際で植物が気持ちよさそうにしている

ニッチなマーケットに商機を見出し店舗オープン

自分にとって合う商品を見つけることに苦戦していた髙橋さんは、それを逆手に取り「だったら自分がお店を作れば同じことで悩んでいる人たちの課題解決に貢献できるのではないか」と思い始める。

「バッグのデザイナーは15年ほどやっていたのですが、働いている時にお店を開きたいって思いはずっとありました。当時はアパレルのセレクトショップをやりたかった。でも僕は作る側だったから、宣伝販促や販売のノウハウを持っていなかった。それから知り合いに広告代理店に誘われて様々なビジネスモデルに触れることで、今ならお店をやれるかもしれないと思いオープンに踏み切りました」

圧縮陳列をせず、来る人にも心のゆとりを持たせるよう心掛けている
代々木上原を選んだのは高橋さん自身が20年ほど実際に住んでいて、土地をよく理解していたからだという。近隣に個人店を営むお店を経営している飲み仲間がいたり、地域の情報もたくさん持っていた。住んでいる人のペルソナが見えていたのだ。

「僕がセレクトしようと思っていた商品たちは、日本製で決して安いものではないんですね。じっくり商品を試していただきたいという思いがあり、住む人も来る人も生活にゆとりを感じるこの街にお店を作りたかった。自分が住み慣れた街で、且つやろうとしていた商売には最適だと思いこの地で空き店舗を探し始めました」

シューズセレクトのこだわり

2021年、ようやく念願のお店をオープンした髙橋さん。自分が欲しいと思っていたものを着眼点に商品をセレクトする、こだわりポイントを聞いてみた。

髙橋さんは一人一人に対してそれぞれ違う最適な商品をお薦めする案内人だ
「lupusでは日本国内のブランドのみをセレクトしています。理由は作っている人と直接やり取りが出来て、自分の意見が伝えやすいということや、作り手のこだわりを最大限に感じ取れてお客様にそのまま届けられるところもあるので。あとは僕がビジネスで実際に使った時に考えていたようなことを反映しています。例えば、靴の色は派手過ぎないけれど、ちょっと他とは違うようなデザインのものであったり、靴下は逆にワンポイントで少し明るめな色を選んでバランスの良いスタイリングができるように心掛けています」

聞けば都内ではあまり取り扱われていないブランドも多いという。商品を求める人は、安価なものではないからこそ、しっかりと試し履きしてから購入したい気持ちになるはず。敢えて戦略的に希少性の高いブランドを取り揃えたのだ。

店内にラインナップされたシューズたち
筆者も、広告関係の仕事に就いていた時にサラリーマン然とした恰好をするのが嫌だった。シャツ、カーディガン、スラックスに合わせられる靴を探し、上司に教えてもらったものを指示通りに買い、ソールが擦り切れるまで履きつぶした。

世間にありふれたようなものではなく、有名ではなくとも思いが詰まった個性あるものが欲しかった。もしあの時にlupusと出会えていたら….と過去に思いを馳せた。

意匠性、機能性に長けた良質なアイテム群

福岡県久留米市の老舗メーカー、Asahiのデッキシューズ。スマートな見た目でいろんなスタイリングに合わせられるだろう

雨の日でも歩き回れるよう、防水性の高いコーデュラナイロンを使用したYOAKの「JOURNEY」ビジネスシーンでもプライベートでも実用的に使い回せそう
では、実際に商品の具体的な紹介をしていきたい。

まず、目を引いたのはつま先部分に装飾がある革靴の“ウィングチップ”のアッパーなのに、ソールはスニーカー用のビブラムソールを使ったORPHIC(オルフィック)社製のHELLION PREMOシリーズ。

“アスファルトから森林からカーペットまで”と、ユニークなコンセプトを持った一足だ。ドレッシーなのに長時間履ける機能性に、これこそ、まさにビジネスとカジュアルを掛け合わせたことがプロダクトで表現されたシューズではないだろうか。

ORPHICのHELLION PREMO。スタイリングの幅が広がるハイブリッドスニーカー
靴をサポートしてくれるアイテムたちも揃っている。靴下の生産地として盛んな奈良県の老舗ブランド、「Hoffmann」の靴下は、鮮やかなカラーリングで、ソールはパイルで肉厚に仕上がりクッション性が良く、甲側は平編みで圧迫性がない仕上がりだ。

間もなく100周年を迎えるファクトリーブランド、Hoffmann
筆者が最も気になったのは、カラフルな柄が目立つ今ではあまり見なくなった長い靴ベラ。こちらは、スケートボードのデッキをアップサイクルして作られた靴べらブランド「TAMILAB」のアイデア溢れる商品だ。デッキに描かれたグラフィック、トリックで出来た擦り傷は唯一無二で、1本1本違う表情をしていた。使うことが出来なくなったスケートデッキが、違う形で蘇ったソーシャルグッドな逸品で、ビジネスシーンのみならずストリートヘッズの心をくすぐるアイテムだろう。

最近では短い靴べらが主流になった気がする

この靴べらで1日をスタートすれば、スケートボードを乗り出したような前のめりな感覚で外に出られるはずだ

男性用から女性用まで幅広く取り扱う、来客の男女比は5:5だという

靴だけではない、普段の生活を少しだけ贅沢にしてくれる品々

lupusで取り扱うのはシューズ、服飾雑貨、ライフスタイルグッズ。服飾雑貨とライフスタイルグッズをご紹介しよう。陳列された商品を見ていると、どれも目新しくて面白いコンセプトの商品ばかりだ。

長崎県波佐見町の窯元、中善から生まれたユニークなアイテム
例えば、波佐見焼の器だ。クリエイティブディレクターの角田陽太さんがデザイン監修した、4つに分かれた仕切りが特徴のカレー専用皿。カレーと合わせて食べるチャツネやサラダなどを盛り合わせるスペースを作って栄養価のバランスが取れるような食事を意識して摂れるように設計されている。

他には、同シリーズでアルミで出来た機内食用の容器を模して作られた角の波打つような模様が特徴のお皿も。機内に座っている時の非日常でノスタルジーな気分を思い出させてくれる。

珪化木(樹木が化石化したもの)で出来た腕時計や指輪などを置いたりできる一点物のコースター

手ぬぐいを切らずに仕立てたオリジナル形状のSLEEVE BAG
普段お金をかけないような日用品が、少しだけ贅沢でこだわりのあるものに変えることで、日用品へのモノの見方も変わるのではないだろうか。毎日使うものだからこそ最も大事に扱うべきだと感じた。同様に、毎日携わる人とのコミュニケーションの重要性を改めて再考するきっかけになった。

なんでもない日常を、少しだけ特別に演出してくれるサポートをしてくれるものが数多く揃うlupusに行けば、今持っているものをより一層大切にしようと思うようになるのではなかろうか。

心にゆとりを、日常を丁寧に

店名のlupusは、エジプト神話の狼の姿をした軍神「道を切り開く者」を意味するウプウアウトを連想してつけたという
lupusで取り扱う製品は、決して工業製品ではなく、丁寧に日本の職人が作り上げているものが多く、少し値は張るものの長く使い続けられる価値あるモノばかりだ。対比するとファストファッションが思い浮かぶが、こちらは大量生産大量消費で価格はリーズナブルだが商品サイクルが早く買い物をした時にあまり印象に残っていない印象だ。

どちらを選ぶかは人次第だが、大量消費することは時間の流れを無駄に早めていることに繋がるのではないかと考える。

それは、商品を作る人も忙しい、売る人も忙しい。買う人も忙しいという流れになっていることに他ならない。そういった消費行動が日常を忙しなく気持ちの余裕を消していってるような、そんな気がした。
時間に追われがちな人こそ、一度代々木上原のゆっくりと流れていく雰囲気の中で、豊かで丁寧な生活に向けてじっくりと買い物を楽しんでみるのはいかがだろうか。

lupus

住所:東京都渋谷区西原3-24-10 PDビル4F
電話:03-6407-1843
営業時間:13:00~19:00
定休日:月曜、火曜(祝日の場合は翌平日)

https://lupustokyo.stores.jp/
https://www.instagram.com/lupus_tokyo/