本を買うとき、普段はネットショップや電子書籍を利用することが多い。しかし古書店街を巡ってみたら、”古い”のにまったく新しい読書体験が待っていた。江戸時代の浮世絵や明治時代の美術書、戦前の小説など、さまざまな時代・ジャンルの本が見つかる「早稲田古書店街」は、まさに知の宝庫。古書店5軒と、小休憩にぴったりなカフェもあわせて紹介する。
古書店21軒が並ぶ「早稲田古書店街」
東京都内には、世界一の書店街と言われる神田神保町、東京大学前の本郷、そして早稲田大学周辺の早稲田に古書店街がある。早稲田は、神田神保町に次ぐ規模を誇る古書店街だ。
JR・西武新宿線 高田馬場や地下鉄東西線の早稲田駅を出て、早稲田通りを早稲田大学 早稲田キャンパス方面へしばらく歩くと、通り沿いを中心に古書店がポツポツと現れるエリアにたどり着く。
後述する早稲田の古書店「古書現世」店主・向井透史さんの著書『早稲田古本屋街』(未来社刊)によると、現在営業している古書店は、ほとんどが戦後の創業らしい。とはいえ、早稲田古書店街自体は戦前から存在していた。
古書店が並ぶ早稲田通りが開通したのは明治35(1902)年、その翌年に最初の1軒目となる古書店が開店した。「建物も畳の間からみょうがが出てくるようなバラック」で、「カエルはいるし、ヘビもいる、釣もできるといったところ」だったとか。その後、少しずつ古書店が増えていき、「大正の初め頃までに十軒ぐらいの古本屋が(早稲田大学の)正門前通りの方に並んだ」のだとか。
しかし、一度は東京大空襲によって昭和20(1945)年に爆撃を受けたことで当時の古書店は“消滅”し、戦後に新たに古書店街が形成されていったようだ。
昭和61(1986)年には36軒以上あった古書店も、現在は21軒。時代とともに数を減らしたとはいえ、それぞれの店で特色があり、まだ見ぬ本との出合いを求めてハシゴできるのは古書店街ならではの楽しみ方だ。「早稲田古書店街の地図帖」が古書店の店頭などで無料配布されているので、参考にするとよさそう。
早稲田古書店街は、専門ジャンルがある店が多い神田神保町と比べて専門店は少なく、ジャンルも種類も雑多に仕入れることで比較的手ごろな価格で本が手に入る傾向にあるとのこと。
現在は中止されているが(再開未定)、毎年5月に青空古本掘り出し市(早稲田大学キャンパス内)、10月には早稲田青空古本祭(穴八幡宮境内)が開催され、こちらを楽しみにしていた読書家も多い。
早稲田周辺エリアまで視野を広げれば、今も定期的にイベントが行われているので、SNSなどでチェックしておきたい。向井さんの呼びかけで結成された、早稲田、目白、雑司が谷地区で本に関する仕事をしている人たちが集まるグループ「わめぞ」(谷根千インスパイアで頭文字をとって名付けた)が主体となり、雑司ヶ谷鬼子母神通り商店街で古本フリーマーケット「みちくさ市」などを開催している。少し足を伸ばしてみるのも楽しそうだ。
古本の楽しみとは?「興味がない本、知らない本こそ手に取ってほしい」
そもそも、古本の楽しみとは何だろうか。前述の古書現世・向井さんはこう話す。
「古本はその時代ならではの感覚の集合体。特に雑誌は分かりやすい。表紙のデザインなどにも時代性があらわれていて、見ているだけでも楽しいですよ。その時代ならではのみずみずしい感性、価値観、生活を感じられます」
また、古書ソオダ水・樋口塊さんは古書店の魅力を「インターネットや新刊書店は目当ての新刊を買いに行くところですが、古書店は知らない本にも出合えるところ。何があるかわからないから面白いんです」と話す。
だからこそ、二人とも「興味がない本、知らない本こそ手に取ってほしい」と口をそろえる。”目当ての本・知っている本”ではなく、まったく知らない作家やジャンル、時代の本と出合えることこそが、古書店の醍醐味なのだ。
向井さんの「古書店の棚の中には世界があるんですよ。同じ棚を高田馬場や早稲田がある新宿区に例えるなら、伊勢丹 新宿店のような商業的な側面もあれば歌舞伎町のような独特な文化があるエリアが同じ場所に存在しているような」という言葉が印象的だった。古本はチェーン店やインターネットでも入手できるが、このカオスで独特な“世界観”を味わえるのは古書店ならでは。
まったく知らない本を手にとって興味を持ったならば、同じ本棚のなかだけでも無限に知的好奇心を刺激する出合いが待っている。江戸時代の浮世絵や明治時代の美術書、戦前の小説・・・さまざま時代・ジャンルの古本が渾然一体となった古書店は、新たな価値観や気づきをもって未知の世界へと誘ってくれるだろう。
早稲田古書店街の古書店5選
古本や古書店の楽しみ方を知ったところで、創業50年を超える老舗から、オープンから5年ほどの古書店街の新星までの5店舗の特徴を、おすすめの本とともに紹介する。
山積み本から発掘する楽しみ / 古書現世
創業50年以上の老舗古書店。戦前から近年までの、歴史・文学・思想・マスコミ・趣味・文科系と幅広いジャンルの本が、店内に所狭しと並べられ、積まれた中から“発掘”するのが醍醐味。雑誌連載も持つ知識豊富な店主の話を聞くのも楽しい。店頭には100円均一本もあり、地元の銭湯帰りの人が買っていく光景も日常なのだとか。
古書現世
新宿区西早稲田2-16-17
電話番号:03-3208-3144
営業時間:12:00~18:00
定休日:日曜
https://sedoro.hatenadiary.org/entry/20991231
多ジャンルから未知の出会いが / 古書ソオダ水
「知らない作家やジャンルに出会ってほしい」と、国内外文学・詩歌・美術・サブカル・コミックなど幅広くそろえ、あえて店主の顔が見えない棚づくりを心がけている。詩集はフリーペーパーや新刊も扱い、言葉のおもしろさに出合えるのも魅力。
古書ソオダ水
新宿区西早稲田1-6-3 筑波ビル2A
電話番号:03-6265-9835
営業時間:11:00~20:00
定休日:水曜
http://kosho-soda-sui.com/
江戸時代の和本など希少本も / 五十嵐書店
創業は約50年前、2012年にリニューアル。1階は美術、思想中心、地階は日本史、国文学、仏教分野の学術書がそろう。江戸時代の和本や浮世絵、明治時代の美術書といった歴史的価値が高い本も。特に地階では『皇室制度史料』『中世荘園絵図大成』など知識の広がりに没頭必至のラインナップ。
五十嵐書店
新宿区西早稲田3-20-1
電話番号:03-3202-8201
営業時間:10:30~18:30
定休日:日曜
https://www.oldbook.jp/
哲学書やエンタメ本にファン多し / 丸三文庫
美術・思想・歴史・宗教・外国文学を扱う。特に哲学書にファンが多い。映画などサブカル関係も充実していて、戦前の映画雑誌の切り抜きといったユニークなアイテムも。店頭にはレトロなピンバッチなどのアンティーク雑貨もラインナップ。
丸三文庫
新宿区西早稲田2-9-16-101
電話番号:03-3203-9866
営業時間:月・水曜12:00~19:00、火・木・金・日曜は18:00まで、土曜は17:00まで
定休日:日曜・祝日
https://redrum03.hatenablog.com/
絵本からZINEまでセレクト / NENOi(ネノイ)
2017年にオープンした新刊・古本や雑貨を扱うお店で、絵本の原画展などのイベントも行っている。「ここに来れば、何か面白いものがある。想像力を刺激される」がコンセプトで、本のセレクトは絵本や海外文学、ZINEなど幅広く、知識欲を刺激されるものばかりだ。カフェスペースもあり、コーヒーやクラフトビールを片手に、購入した本や持参本を楽しむこともできる。
NENOi
新宿区西早稲田2-4-26西早稲田マンション103
電話番号:なし
営業時間:12:00 ~19:00(金曜のみ20:00まで)
定休日:日曜
http://nenoi.jp/
古書店街めぐりの小休憩にぴったりなカフェ2選
古書店めぐりにちょっと疲れたら、カフェでの戦利品(古本)を片手にひと休み。
北欧空間で長時間利用も歓迎 / and tsubame
一人席やソファ席、テラス席などを用意。マグたっぷりのコーヒーや手作りスイーツは読書のお供にぴったり。Wi-fi、コンセント完備、フード終日提供なのもうれしい。
and tsubame
新宿区西早稲田3-15-1
電話番号:03-5292-3515
営業時間:11:00~20:00(LO19:30)※土日祝は10:00から
定休日:なし
https://www.instagram.com/andtsubame/
プリンはお昼に売り切れることも / cafe omotenashamoji
品数いっぱいのランチ定食や季節ごとのスイーツなどが好評。一番人気は自家製プリン。硬めプリンにバニラアイスを乗せ、極限まで焦がしたほろ苦カラメルをとろり。
cafe omotenashamoji
新宿区西早稲田3-28-1 リコスビル1F
電話番号:03-3202-4932
営業時間:11:00~18:00(LO17:30)
定休日:不定休
https://omotenashamoji.mystrikingly.com/
高田馬場というと、大学のある学生の街というイメージがある人も多いだろう。一方で、だからこそ育まれてきた知の文化がある。
“知らない”から始まる、ちょっとユニークな古本との出会い。高田馬場は、巡るたびに好奇心を刺激され、自分の新たな一面を教えてくれる、そんな街かもしれない。
※紹介している本の価格は取材当時のものです。在庫がない場合もあります
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※料金はすべて税込です
CURATION BY
ライフスタイル系の編集者/ライター。新しいライフスタイルを求める日々を送っている。建築、文具、旅、街おこし、リノベーション情報が大好物。最近気になっているものは、タイニーハウスとバンライフ。