Vol.137

UNIQUE

09 JUN 2020

伝統をアップデート。絞りの歴史を新たな色で染め上げる「まり木綿」

「絞り染め」と聞いてどんなイメージを持つだろう。レトロで渋い、落ち着いた印象があると思う。絞り染めの歴史は古い。7世紀頃、インドの染色技術が日本に伝わってきたのが始まりと言われている。奈良時代に多くの技法が生まれ、技術の発達につれ、江戸時代には日本独自の染色技法が完成したそうだ。
愛知県・有松で生産されている「有松・鳴海絞り(以下:有松絞り)」は、約400年続く歴史ある伝統工芸品。実は、日本の絞り製品の大半は、ここ有松でつくられている。

そんな歴史ある伝統工芸の世界に、新たな絞りのイメージをつくりだしている女性二人組のユニットがいるという。今回は歴史と伝統の垣根を越えた、新しい価値観に触れてみた。

東海道の情緒残る町、愛知県・有松

有松は、江戸時代より有松絞りで栄えた町。
有松絞りの色は紺一色が基本で、町を歩くと紺色で綺麗に染め上げられた暖簾が風に揺れていた。

有松絞りでつくられた暖簾。旧東海道沿いの至るところで目にすることができる。
江戸と京都を結んだ旧東海道沿いの風情ある町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されるなど、歴史と伝統を深く感じることができる。

旧東海道の面影が残る、有松の町並み。
そんな趣のある街並みの中に、カラフルな絞りが目を引く「まり木綿」というお店がある。

店内はカラフルでポップな商品が並んでおり、空間にいるだけでワクワクする。元々はギャラリースペースだった場所を借り、店舗にしたという。
経営しているのは、クリエイターの伊藤木綿(いとう ゆう)さんと村口実梨(むらぐち まり)さんのお二人だ。

まり木綿の伊藤木綿さん。

まり木綿の村口実梨さん。二人は地元愛知県の芸術大学で、同じテキスタイルデザインコースを専攻していた。
正直なところ、若いお二人や作品を目にしたとき、絞りのイメージと全く正反対だと感じた。なぜ、有松で伝統工芸品の職人としてスタートしたのか、お話を伺った。

オープンのきっかけは、大学の授業と京都を代表するテキスタイルブランド

お店をはじめたきっかけは、なんと大学の授業。二人が専攻していたテキスタイルデザインコースでは、繊維に色を付ける「染め」と、繊維を構成する「織り」の、布をつくるための伝統的な技術を学ぶ。

あるとき、京都のテキスタイルブランド「SOU・SOU」のプロデューサー・若林さんが、二人が通う大学に特別講師として訪れた。そこで二人のカラフルな色合いの作品に目が止まり、SOU・SOUの商品とコラボして販売されることになった。商品の反響も良く、お店に納品する度に二人の中で「店頭に立って販売したい」という気持ちが大きくなった。二人のオリジナル商品も販売するようになると、若林さんに「こんなポップな絞りを出しているお店はないし、自分たちでこれだけ商品をつくってきたなら、お店を出したらいいんじゃない?」と提案をしてもらったそうだ。

まり木綿の看板商品、三重県の伝統工芸品・伊勢木綿を染めた手ぬぐい。綿(わた)に近い状態の糸を糊でかためて織られているので、洗濯して糊が落ちるごとにやわらかな風合いになっていく。タペストリーや暖簾としても使えるので、おしゃれな一人暮らしのアイテムにも。
大学を卒業して2ヶ月後、二人はお店をオープンさせた。最初は手ぬぐいと足袋しか商品がなかったが、お客さんの「こんなのあったらいいな」という声を聞きながら、商品の種類を増やしている。

足袋はひとつひとつ手描きで描いて染める一点物。オリジナルオーダーも可能だ。

一番新しい商品はマスク。手ぬぐいと同じ伊勢木綿を使用しており、肌触りが良いのが特徴。ネットでも販売している。

オリジナリティあふれるカラフルな絞り

授業を受けていた最初の頃は、二人ともベーシックな紺色で作品づくりをしていた。色の縛りはなかったので、「もっとカラフルな方が可愛い!」と思った二人は、自分たちのやりたいように研究を始めたのがポップでカラフルな絞りが生まれたきっかけだそうだ。

板締め絞りをする二人。有松絞りの技法は約100種類もある。
紺ベースが基本の有松絞りだが、まり木綿の活躍で、少しずつカラフルな有松絞りが認知されるようになった。今では周りでもカラフルな絞りを出す店が増えてきている。

最近、まり木綿の二人は有松町の会議に呼ばれるようになり、有松絞りの商品開発で独自の色彩センスやアイデアを求められるようになった。昔ながらの職人さんと「こういう色が売れるんだ」と商品を介してコミュニケーションを取るなど、有松の伝統と歴史に新しい風を吹かせている。

作品のひとつひとつにストーリーがある

まり木綿が絞りを染めるときの技法は「板締め絞り」という。

「板の中に布を挟んで外から染めるので、布を広げるまで中がどうなっているか全くわからないんです。染料の色によって浸透の速さが違うので、隣り合う色が混じって違う色が出て来たり、発見があるので毎回ワクワクしますね」と伊藤さん。

染めた布を洗う伊藤さん。手ぬぐいだと全行程を経て最短2日でできるそう。
「私は店頭に立って、制作だけしていたら見えなかったことが見えてくるのがおもしろいなと思っています。実際にお客さんの意見を聞いて、こんな商品だったら欲しい、使いたい、と直接生の声が聞ける環境にいられるのが嬉しいし、コラボしたいという声もいただけるので、人とのつながりが生まれることが楽しいです」と村口さん。

板締め絞りで染め上げた布を使用した日傘。東京の洋傘ハンドルを製造している「大森商店」さんとのコラボ商品。

染めた柄にはそれぞれ名前がついている。写真の柄は「茜色の刻」。季節感を大切にして染めているので、柄で四季を楽しむこともできる。

奈良の畳店「織田畳店」さんとのコラボ商品。使うほどに色艶が変化して、天然素材ならではの風合いが楽しめる。

中を開くと、まり木綿のテキスタイルがあしらわれている。
絞りは遠い存在であるように思っていたが、二人の話を聞いていると不思議と身近にあるように感じた。そんな二人のカラフルな世界に、ぜひみなさんも触れてみてほしい。

まり木綿

住所:愛知県名古屋市緑区有松1901
電話:052-693-9030
営業時間:10:00~18:00(定休日:火・水・木曜日)
最寄駅:名鉄名古屋本線「有松駅」下車 徒歩2分

[web] https://marimomen.com/

[ワークショップ] https://bit.ly/2Yi85nP
7/21(火)14:00~16:00
綿ガーゼのストールを染めるワークショップを行います。(要予約・先着順)
※新型コロナウイルスの影響で、一部内容が変更になる場合があります。