Vol.66

20 SEP 2019

<SERIES> アーティストFILE vol.2 自分で自分が楽しみ、Kawaguchi Elly

文化服装学院卒業。アパレルファッションデザイナーを経て、イラストレーター・ペン画家として活動開始。人物、模様、動物などを、繊細かつ緻密に描き上げる作風が特徴。雑誌「Sweet」の別冊占い特集の表紙を手掛け、数多くの展示会に参加。2017年より地元・青森県むつ市の「元気むつ市応援隊応援プロデューサー」に就任し、全国で活動をしている。アーティストFILE vol.1に引き続き、「何でもできる、自分だけの日曜」をテーマに描き下ろしてもらった。

「その日」

「至福」

どちらも私の日曜日

ワクワクする朝

その日一日何をするか、まず考えるところから彼女の休みは始まるそう。イラスト「その日」は、自分がやりたいことを絵に描きたいと考え制作したと説明してくれた。

「左手でバッ!とカーテンを開けてるイメージで、時計は起きた時間を表しています。ギターを弾くので右手にはピックを持っています。耳には愛用しているペンのハイテック。最近引っ越したばかりでDIYにはまっているので、電動ドリル。私の中で明るい・休みの日のイメージがある(ゲームの)マリオのキャラクターの星も覗かせました。メールも返さないといけないので、Gmailの意味で紙飛行機。私の日曜日のやること・やりたいことを絵の中に詰め込みました」

頭の上のクラッカーは、その柄に意図があるそうで「幾何学的な要素を入れると絵が締まるので、精密に描かれた花や髪の毛、ふんわりと鉛筆で描いた顔とのコントラストをつける意味でよく絵の中にヒョウ柄、ゼブラ柄、七宝柄などを描き込んでいます」と話す。意図を知ると、作品を見る目が少し変わるのが面白いところだ。

ぐうたらしたっていいじゃない

「やりたいことがたくさんある’’やる気’’を「その日」で描いています。タイトル通り、まさしく’’その日’’に朝起きて、’’あれやりたい!’’とエネルギーが湧いてきて行動する自分のとある日曜日です。でも、休みの日にいつも生産的に動けるわけではなくて、一日中YouTubeを見たりする日もあります。「その日」とは反対に、’’だらしなさ’’と’’究極の休み’’を表現したくて「至福」を描きました」とイラストを2枚に分けた意図を教えてくれた。

「私の中で’’だらしなさ’’のイメージってピザだなと思って。デリバリーしてくれてソファーで食べられるし」と笑いながら話す彼女。今回「至福」の制作にあたり、初めてエアブラシを使ってみたそうだ。

「いつもペンで塗りつぶしたり鉛筆で顔に陰影をつけていくんですけど、どうしても平面的に見えてしまうのを変えたくて。テレビと壁をイメージした背景をエアブラシで描いてみたら、奥行きも出てすごくよかったです。新しい発見がありました」と嬉しそうに言う。

なぜドクロなのか、なぜ脳みそがむき出しなのか?そのあたりを聞いてみると、
「ドクロの脳みそが露わになっているのは、少しお馬鹿っぽいイメージで描いたからです。細かい点で描かれたドクロに、線を太めにしてポップな印象にした脳みその組み合わせが個人的にすごくお気に入りです。ドクロは’’やる気のなさ’’を表していて、「その日」も「至福」もそれぞれリアルな私の日曜日です」と語る。

ちなみに「至福」のソファーの上にある絵のようなものは、実は彼女のサインだそう。他の作品にもどこかに必ずサインが入っているので探してみて欲しい。

ファッションからアートへ

転機は一枚の絵

絵を描き始めたのは、絵が上手なお姉さんの真似がきっかけだそう。高校生になると、絵よりもファッションに興味が湧いて描かなくなってしまい、文化服装学院卒業後に就職した、ミセス系のファッションブランドのデザイナーをしていた時も、絵は仕事としてしか捉えていなかったと話す。ある日、仕事の合間に描いた絵をフェイスブックにあげたら反響が大きく、その時に「私、絵をやろう」とピンと思い立って今に至るそう。

「Peacock」

代名詞のペン

なぜハイテックを使い始めたか聞いてみると「たまたまそこにあったからです」と飾り気なく素直に教えてくれた。「水彩など他の画材も試してみたけど、あんまりときめかなくて自分の味になりませんでした」

「女の子を描き始めたのも、改めて聞かれると分からないです。理由は特にないですね」としばらく考えてから答えを返す。ハイテックで描く女性像で人気が定着している彼女の作品。理由は分からなくても、それは必然的な選択だったはずだ。

描き終わって初めて知る、自分の気持ち

筆が動くままに任せる

絵の制作に取り掛かる時にまず初めにすることは「言葉にすること」だそうだ。作品「浮遊」を例に話してくれた。

「浮遊」

「まずは頭のなかにあるイメージを「ふわふわ浮いてる感じ」みたいにニュアンスで言葉にします。次に海や深海のイメージが湧いたので、金魚がぐるぐる回っていて、少し暗いイメージにしようと描き始めました」

実際にどんな風に描き進めるのか別の絵で実際に見せてもらった。軽いタッチで素早く筆を進め、ラフに下書きを描いていく。イメージが湧いたものはそのまま文字で書き込んだりして、見る見るうちに出来上がっていく。

考えながら素早く描いていくと、最初のイメージと絵が少しずつ変わっていくそうだ。
「暗いイメージで描いたけど、この女性の表情が思っていたよりも明るくなりました。いつも自分でも、最後の最後までどんな絵になるか分からないんです。最初のイメージと違くても『今自分はこんな絵が描きたかったんだな』とか女性が笑ったのなら『笑いたかったんだな』と思ってそれを良しとしています。いつもその時の自分の精神面を信じてペンを動かしています」

トラウマに命を吹き込む

「実は蝶々大嫌いなんです(笑)」

彼女の作品によく登場してくるのが蝶々。何気なく「蝶々好きなんですか?」と聞いてみたら意外な答えが返ってきて驚く。
「点と線で描いているので、真っ黒に塗りつぶす部分が欲しくて描き始めた」と、蝶々たちはきちんと役割を持って作品の中で生きているそうだ。

上下黒の服で出迎えてくれた彼女。少しだけミステリアスな雰囲気を放ちつつも、実際に話してみると自分のことを「わい」(青森の方言で’’私’’の意味)と呼び、優しい口調でこちらの緊張をほぐしてくれるような、柔らかい佇まいも持ち合わせていた。繊細で儚げな印象がある彼女の絵には、ドクロのような少し毒々しい要素も含まれている。その面白いコントラストには、彼女自身のどこかふわふわとした不思議なオーラが作品に映されているのかもしれない。

まだまだこれから

ここで終わりにしたくない

「やってみたいことがたくさんあります。今は女性像を描く作風が定着していますけど、ここに留めておく必要はないですし、もっともっと自分の可能性は広がるはず。今は色んなことに挑戦して、’’振り幅’’を自分で広く持っていたい。そう考えると本当にこれからが楽しみです」と今後の展望を明るく語ってくれた。

残るは一文字

おもむろに彼女の名前「絵里衣」と書きながら話を続ける。
「自分の人生が名前の通りに進んでることに気付いて。「絵」はまさしく今絵を描いていて、その前はファッションを仕事にしていたので「衣」。じゃあ「里」は何だろうって最近考えています。私の中で「里」は故郷のイメージがあって、地元むつ市の応援プロデューサーにもしていただいたので、もっと地元の役に立ちたいなと思っています。「里」の部分をしっかりと埋めるのが今後の目標でもあります」

「描きたい絵がたくさんある」「やりたいことがありすぎる」とポジティブな言葉で溢れる彼女の話。続けることが一番大切だと語り、絵に向き合う真摯な姿勢が伝わってくる。最近は油絵にも挑戦しているそう。探究心を常に持ち続け、変化することを恐れないのが彼女の芯の強さの秘密なのかもしれない。今後の新しいKawaguchi Ellyが楽しみだ。

Information

11月末から東京で個展を開催。詳しい情報は彼女のホームページやインスタグラムなどを随時チェックして欲しい。

川口絵里衣 個展
会期:11月30日(土)〜12月8日(日)
会場:八犬堂ギャラリー
住所:東京都世田谷区池尻2−4−5 IID 世田谷ものづくり学校118号室

official website
https://www.kawaguchielly.com/
Instagram
https://www.instagram.com/ellykawaguchi/

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