Vol.226

16 APR 2021

複雑化するテクノロジーと人間の関係を考える「ライゾマティクス_マルティプレックス」展

デジタルデバイスやデジタルメディアの発展により、大量の情報が溢れ、その中で私たちは当たり前のように暮らしている。VUCA(ブーカ)※の時代と呼ばれる現代社会において、無自覚にデバイスを使い、そこから得られる情報を受け止めているだけでは、あっという間にテクノロジーに取り込まれる側になってしまうだろう。今年創立15周年を迎えるRhizomatiks(以下、ライゾマティクス)、これまでメディアアートの領域を超え、視覚デザイン、建築や都市開発、広告、エンターテイメント、最新技術の研究開発など、多岐にわたって活動を行ってきた。現在開催中の、美術館で初となる大規模個展「ライゾマティクス_マルティプレックス」を通して、私たちが今後テクノロジーとどのように付き合っていくべきか、改めて考えてみよう。
※Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの総称。

メディアアートを超える。ライゾマティクスが積み上げた15年の歴史

「ライゾマティクス_マルティプレックス」展会場入口
2006年に設立されたライゾマティクスは、研究開発を中心に挑戦をつづける複数種類の開発技術を持つフルスタック集団だ。真鍋大度や石橋素らをはじめ、アート、デザイン、数学、工学、建築など様々なバックグラウンドを持つメンバーが集う。創立10周年となった2016年には、研究開発と表現の追求に軸を置く「Research」をメインに、「Architecture」「Design」の3部門を立ち上げ、活動の幅をさらに拡張。高度な技術力と表現力を武器に、リアルな場とオンラインを横断しながら様々な領域に活動を広げてきた。

Fencing Visualized Project

2013年~H.I.H. Prince Takamado Trophy JAL Presents Fencing World Cup 2019ライゾマティクス_マルティプレックス展[参考図版]

坂本龍一 + 真鍋大度《センシング・ストリームズ-不可視、不可聴》

札幌国際芸術祭2014での展示風景 撮影:木奥惠三 / 提供:札幌国際芸術祭実行委員会[参考図版]

野村萬斎×真鍋大度《FORM》

2017年1月2日〜3日 東京国際フォーラム ©Hiroyuki Takahashi/NEP[参考図版]

Perfume《Reframe 2019》

2019年 撮影:上山陽介[参考図版]
これまで手がけてきたプロジェクトは数えきれない。Perfumeやビョーク、スクエアプッシャー、オーケー・ゴー、ELEVENPLAY、狂言師・野村萬斎など、アーティストとのコラボレーションのほか、フェンシングの剣先の軌跡を可視化する「Fencing Visualized Project」の技術開発、日本の都市を3Dデータ化する「Project “PLATEAU”」などが挙げられる。プロジェクトにおいて、企画からソフトウェア、ハードウェアの開発、オペレーションまで、ほぼ全ての工程を手掛けることで、統合的なクリエイティブ力を育んできた。

そして2021年、より大きなスケールへとシフトする社会からの要請に応えるため、「ライゾマティクスリサーチ」は「ライゾマティクス」として名を改めた。最先端な表現や研究への挑戦とともに、変化しやすい複雑で曖昧な現代社会にアプローチしている。

「可視化」によって見えてくる、テクノロジーの裏側

私たちの身体はいまや、リアルとバーチャルとの間を行き来するようになった。ライゾマティクスは、大量の情報にあふれるネットワーク社会、そこから生まれたVUCAの問題を様々な角度から捉え、「見えないもの」をどのように把握し、理解するかというリアルな接点を分野横断的に探究してきた。

本展覧会は、現代社会におけるコミュニケーション手法や、そこから生まれるヒューマニティを見つめながら、「メディアアートとはなにか」「アーティストの役割とはなにか」を、未知のヴィジョンを追求し視覚化することで問いかけるものだ。また会期中はオンライン会場も設置され、多角的に展示を楽しめる構造となっている。

デバイス付きチケットを購入すると、入り口のカウンターで「実験デバイス」を借りることができる
展覧会入り口にあるデバイスカウンターでは、「実験デバイス」が配られている。一見音声ガイドのように見えるが、頭部につけるのはイヤフォンではなくセンサーであり、鑑賞者の展示室内での位置や向き、動くスピードのデータを取得する。このデバイスによって得られた展示鑑賞中のデータは、個人が判別できない形で来館者の行動軌跡として視覚化され、オンライン会場の3Dモデル内に復元。最終的に作品の一部となる。

このような行動履歴をはじめ、「見えないものの可視化」こそ、主要メンバーである真鍋大度らがこの15年間取り組み続けてきたテーマだ。

ウェブサイトにアクセスしたとき、どれだけの情報がどのように取られているのかを可視化した、「Trojan Horse(トロイの木馬)」
例えば「Trojan Horse」という作品もそのひとつ。真鍋は「AIの進化によって高度かつ巧みにパーソナライズされたターゲティング広告によって、インターネット上にフェイクニュースや陰謀論の拡散といった『負の産物』とも言える問題が現れた」と提起。また、マルウェアをはじめとする様々なデジタル領域での問題を解決する必要がある、という考えからこの作品が生まれた。

「Trojan Horse」では「The Washington Times」のウェブサイトを例に、人がウェブサイトを訪れた際、実際に裏でどのようにデータがやりとりされているかを可視化。データが広告に二次利用されることを防ぎ、健全なマネタイズを発明すべきだと作品を通して警鐘を鳴らす。テクノロジーの裏側で何が起こっているか、そこに意識を向けるようになることで、人々がテクノロジーに振り回されることなく、能動的に取り扱おうとする土台ができるはずだ。

身体パフォーマンスを演出し、未知の身体の創出する

「Rhizomatiks × ELEVENPLAY “multiplex”」は2つの空間に分けられ、手前の空間ではダンサーとダンサーの動きがビジュアライズされた、バーチャルな映像表現を見ることができる
今回の展示では、新作となる「Rhizomatiks × ELEVENPLAY “multiplex”」も注目したい。これまでライゾマティクスと数多くのプロジェクトを共にしてきた、演出振付家MIKIKOが率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」とコラボレーションしたインスタレーション作品である。映像プロジェクションや動くロボティクスに身体パフォーマンスを掛け合わせることで、リアル空間に繰り広げられるパフォーマー不在の演出と、映像というバーチャル空間の中で繰り広げられる身体の動きを結びつけ、ハイブリッドに展開。その多重性は見る者に視点の移動転換をもたらし、未知の身体感覚を創出する。

奥の空間には動くキューブとカメラが設置され、映像と同じタイミングでビジュアルと動きが再生される

リアルな空間で体感するビジュアル表現とサウンド、目の前で動くキューブが、不在の身体の存在を想起させる

1回のプログラムは10分程度。バーチャルとリアル、それぞれをじっくり体験することをおすすめする

オンライン会場では、ダンサーのモーションデータや移動カメラの位置情報などを可視化したものを見ることができる
また、オンライン会場にアクセスすることで、ダンサーのモーションデータや移動カメラの位置情報などを可視化したものを見ることができる。オンラインの体験から得られる、新たな視点にも注目したい。

技術の発展によりアップグレードされるメディアアート

particles 2021

「particles 2021」は、2011年に発表し国内外で大きな評価を得た「particles」を、今回の展覧会のためにアップデートした作品だ。8の字型の螺旋構造を持つ巨大なレールの上を、多数のボールが転がり、空中に浮かぶ光の点滅が幻影的な残像を生み出す。今回の作品では赤外線LEDを内蔵したボールの位置をトラッキングし、そこに正確にレーザーを照射。独創的かつ立体的な視覚表現を実現した。テクノロジーの進化が表現の手段を増やし、見る側の感性もさらに拡張されるだろう。

オンライン会場ではボールの位置情報や発光するボールのライティングデータを使用し可視化したものを見ることができる

「Rhizomatiks Archive&Behind the scene」内に展示されている「過去に制作したプリント基板やプロトタイプ」
「particles 2021」の手前にある展示スペースでは、アーカイブと舞台裏というテーマで、映像とこれまでのプロジェクトに使用されたハードウェアなどが展示されている。技術から表現が生まれるのか、表現から技術が生まれるのか。ライゾマティクスはトライアル&エラーを繰り返しながら、アート表現と技術の双方を拡張し続ける。そのライゾマティクスならではの、具体的なアプローチを知ることができる。

なにが真正のアートになるのか。問いかけが生み出す気づき

Epilogue

会場内の8箇所に設置されたカメラの映像から、AIを利用した人物検出を行い得られた座標データも表示されている
このようなシステムの裏側や、展示を鑑賞する人々の情報が取られている様子の提示を通して、SNSやウェブサイトなどへのアクセスを介して集められる個人データの問題、バーチャル空間における身体性、機械学習によって成立する観客参加作品など、改めて人とテクノロジーの関係を考えさせられる。

Rhizomatiks × ELEVENPLAY “multiplex”

今後、身の回りにあるもの、身体、テクノロジーが交わり合うにつれ、裏側に這うシステムは捉えきれないものになっていくだろう。このように発展しつづけるテクノロジーと付き合う上で、視点の転換と問題意識を高めることが、今の私たちに求められていると体得できる展覧会だ。そしてライゾマティクスが行う多様なアプローチの中で、どのようなものが真正のアートとなっていくのか。見ている私たちの審美眼とアートに対する思考が問われている。

ライゾマティクス_マルティプレックス

この展示会は終了しました

会期:2021年3月20日(土)〜2021年6月20日(日)
会場:東京都現代美術館(MOT)企画展示室 地下2F
住所:東京都江東区三好4-1-1
施設開館時間:10:00〜18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(5月3日は開館)、5月6日
観覧料:一般1,500 円 ※予約優先チケットあり
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/rhizomatiks/

オンライン会場
https://mot.rhizomatiks.com/