Vol.192

18 DEC 2020

<SERIES>アーティストFILE vol.17 経験が導いたイラストの道。髙城琢郎

1989年生まれ。東京都在住。広告制作会社でグラフィックデザイナーとして働いた後、 2016年に独立してイラストレーターへ。現在は、広告を中心に雑誌やテレビなどの幅広い媒体で活動中。主な仕事に、NHK Eテレ「シャキーン!」内コーナー「朝から動物会議」のイラスト制作、京王電鉄サイネージアニメーションイラスト制作、MALIBU(サントリー)苗場スキー場内フォトスポット制作(2020年)などがある。

その表情にパワーを込めて

青空

ウッドパネルにアクリル絵具とシルクスクリーンで制作された「青空」。寒色と暖色の鮮やかなコントラストに、女性の顔がアップになった大胆な構図に収めた彼の「パワー」は、すごくシンプルなものだった。

「朝起きて快晴だとその日一日やる気が出るなと思って、青空をメインにしました。やっぱり曇りの時より、仕事も断然やるぞっていう気分になりますし、晴れていると景色もカラフルに見えて良いですよね。青空を見上げて、風が気持ちよく吹いているようなシーンを想像して描きました」

パッと見た感じでは、ベタ塗りの明るい色合いにつられて“ポップな絵”という第一印象を受けるが、笑っているようにも少し寂しそうにも見える複雑な表情によって、見る人の捉え方の幅が広がる絵になっている。今作品に限らず、表情にはいつもこだわりを持って描いているそうだ。

「自分が憧れたり、かっこいいなって思ったりする人があまり表情を表に出さない人が多いからか、口を大きく開けて笑っているとか満面の笑顔の顔は、元々あまり描かないんです。特に今回の女性のような表情だと、少し違うだけで別人になってしまうので、何度も描き直します。自分が頭の中で想像している人物の表情や佇まいと、実際に描いたものと一致するまで調整する作業は、絵を描く時にパワーを使うところですね」

脱力して見上げる空

グラフィックデザイナーになる前は、バンド「ふくろうず」のドラマーとして活動していた彼。バンド自体は解散してしまったが、彼が在籍していた時にメジャーデビューも果たした人気バンドだ。フィジカルな楽器を演奏していた彼だが、「パワー」というテーマはピンとこなかったそう。

「自分の中にある潜在的なものに、パワーみたいな強い感じがあんまりないなと思って(笑)。ドラムを叩く時って、意外といかに力を抜くかってことを考えながらやるのですが、僕の場合、それは絵も同じなんです。真面目なので考え過ぎちゃうと、硬くなってどうにも描けなくなってしまう事があるので。絵もドラムも、脱力している状態が一番良い仕事が出来るのだと思います」

元「バンドマン」という世間的なイメージが先行するものとは似つかわしくないくらい控えめで、風のように掴み所がない雰囲気を出して「自分には脱力感が必要です」と言う彼。絵もドラムも力みすぎずに肩の力を抜いて、飄々と青空を軽く見上げるくらいが、彼が力を発揮できる丁度良いパワーみたいだ。

明るく、見やすく、キャッチーな絵

その真面目な性格ゆえに、時たま絵の中の整合性を気にし過ぎてしまう時があるそう。「インパクトが強く、キャッチーで分かりやすい絵」を描くために、いつもより楽に自由に考えて描くことを常々意識していると言う。

「人物を描く時だと、人間の身体の可動域通りに描かれた完璧なポーズというよりは、イラストとして面白いポーズを描くとか、角度をつけた構図を描く時も、その遠近感をリアルに描くのではなくて、一枚の絵になった時に一番面白い状態を描くようにしています」

下の作品は「Time is Precious(時間は貴重である)」というテーマで、彼が想像したことを自由に描いた絵だ。

「テーマから砂時計を連想して、落ちていく砂の一粒が過ぎていく一秒だとすると、その一粒は拡大したら輝く宝石みたいなものかもしれないなと思いました。砂時計のフォルムや上から降ってくる砂の輝き、女性が砂時計の中に入ってしまった幻想的なイメージをより強調するために、下から見上げる角度で描きました。普段フィクション的な場面の絵を描くことが少なくて、テーマを頂いたからこそ生まれた作品なのでとても気に入っています」

「青空」や「Time is Precious」のように、真正面からではなく角度のある視点で奥行きが強調されると、絵にダイナミックさや勢いが生まれ、インパクトも強くなる。そして彼独特のカラフルな色使いでキャッチーさが加わり、見る人が視覚的にも気持ち的にも、明るくなって見やすい絵になっていることが、彼の作品の魅力のひとつだと思う。

「Time is Precious」(『Numéro TOKYO』(扶桑社)2020 年 7・8 号挿絵)

職人気質な制作姿勢

普段の制作活動も仕事がメインで、“自分から描いていく”よりも、今回の「パワー」のように“テーマをもらって描く”ことが好きなんだそう。自分で自分にテーマを出して開催した、初めての個展が「ホテル・ルモンド」(2017年3月/ギャラリー・ルモンド)だった。

「様々なシーンが描けて、絵にした時に魅力的になって、尚且つ色が沢山使えるテーマは何だろうと考えた時に、ホテルが頭に浮かびました。色んな人の生活が集結しているから物語感も出ていいなと思って、ホテルの中で起こる色んな場面を、広い視点から描いたシリーズにしました。ひとつのテーマに対して違うシーンをいくつも描く作業はすごく楽しいです」

「LIFT」

「APPETITE」

力強い黒の線でぎゅっと描かれた「ホテル・ルモンド」の作品は、「青空」や「Time is Precious」と絵のタッチが随分違う。最近の作品から初期の作品まで遡って見ていると、いくつかのタッチを使い分けているみたいだ。

「貰ったテーマに対して、一番合っているもので描きたいという考え方でやっているので、タッチをひとつに絞っていません。一時期、絞らないのはどうなのかなと思っていたこともあったのですが、どのタッチも『高城くんっぽいね』と言って頂けるので、今はそれを自分の強みにしています」

彼のバッググラウンドを考えると、やはり気になるのが楽曲制作のこと。設けられたテーマに対して思案し、修正を重ねて完成形に近付けていくイラスト制作とは、どんな共通点があるのだろうか。

「僕はドラムだったので、一から曲を作るよりは与えられたメロディーに合わせてリズムパターンをつくっていきます。その人の想像しているイメージに近いドラムを提案して曲を作るという作業は、絵と変わらないと思います」

複数のタッチを持ち合わせ、求められたものに忠実に応えていくその姿勢から感じるのは、彼が職人気質を強く持っていること。「ドラマーは技術者寄りの人が多いのかもしれないですね」と話す彼の音楽の制作姿勢は、そのままイラストにも繋がって活かされている。

予想外で面白い人生

絵も描けるし、音楽も出来る。ジャンルは違えど、この二つは秀でた芸術的感覚を持っていないと出来ないことだと思う。ある人からしたら羨望の的にもなると思うが、彼自身にそんなおごりの気持ちは全くないし、自分をよく理解していて、足が地に着いている。

「自分のことを『アーティスト』のようには全く思っていないです。よく言うインスピレーションとかが、“降りてくる”みたいなタイプでは全然なくて。それに口下手ですし(笑)、目立って表に出るようなタイプでもないんです。でも、自分の作った『何か』であれば、出ることが出来るのだと思います。僕はそれが絵やドラムだったということで、そういう“出せる”ものを自然と好きになっているのかもしれないですね」

その多彩な経歴は興味深く、イラストだけでなく音楽の話も沢山聞かせてもらい、彼の謙虚で誠実さも感じる人柄を知ることが出来た。最後に、「イラストレーター」としての今の彼をつくったのも、音楽活動で得たものが大きいと話す。

「大学が法学部でしたし、性格的にも自分は堅い仕事に就くだろうと思っていましたが、一時期バンドが職業になったことで、『もしかしたら絵も仕事になるかも?』って思ったんです。バンド活動を経験したことで選択肢が増えました。振り返るとバンドをやっていなかったら、自分が今何になっているか全然想像が出来ないですし、絶対イラストレーターにもなっていなかったと思います。自分でも意外な人生で面白いです」

ドラマー、グラフィックデザイナー、そしてイラストレーター。これまでの経験全てが、今に繋がって彼の作品を生み出している。現在は海外進出を狙って、コツコツと準備を進めているそう。明るくてキャッチーで、多くの人の印象に残る彼の作品は国境を超えて人気になるはず。世界各地で彼の絵を見ることが出来る日はそう遠くないと思う。今後もその活躍に大注目だ。

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