Vol.130

15 MAY 2020

<SERIES>アーティストFILE vol.10 生きることは、創ること。辰巳菜穂

福島県郡山市出身。神奈川県横浜市在住。筑波大学芸術専門学群建築デザイン卒業。イラストレーション青山塾、H B塾修了。Googleストリートビューで世界中を旅して見つけた‘‘何かいい風景’’を描いている。2019年に韓国、台湾で展示。2021年にはスペインで個展を予定しており、国内外で活動をしている。主な仕事に、百貨店やアパレルブランドの広告ビジュアル、書籍、雑誌などのイラストレーションを手掛ける。

元気が出るあの場所、あの木

「Street View Journey : Banyan Dr, Hawaii (ストリートビューの旅:バニヤン・ドライブ ハワイ)」

パワーと聞いて彼女の頭に浮かんだのは、自分に元気をくれるもの。それは何かと考えたら「ヤシの木」がパッと思い浮かんだと言う。作品の舞台に描かれたハワイには、昔からよく家族で旅行に行っていたそうだ。

「子どもの頃から『ハワイに行くと元気になる』と感じていました。自然体で開放的になれるというか。そう思うと、子どもの頃の思い出も含めた「パワー」なのかもしれません。ヤシの木も昔から好きで、絵の中の風景にヤシの木を一本描くだけで、表情がガラリと変わりますよね。その存在感の強さに惹かれます」

シリーズ化されている作品「ストリートビュージャーニー」は、Google マップで発見した、世界各地の風景を描いているものだ。今回の作品は、ハワイ島最大の町・ヒロの海岸沿いにある並木道バニヤン・ドライブで見つけた、彼女が思う「何かいい風景」だ。

「私が描きたいと思う『何かいい風景』には‘‘電信柱やヤシの木などの長細い物’’、‘‘看板や壁などにある文字’’、‘‘強い影’’と‘‘車’’が入っています。それらがピタッときた風景をストリートビューで切り取ることが、常にこだわっていることです」

いつどこに居ても向き合う

ピタッとくる場所を見つける作業は骨が折れるらしく、ずっと探していても見つからない時もあれば、適当にピンを刺した場所で、一発で見つけることが出来る時もあるそう。Googleマップ上をぐるぐると探す時間の他にも、別のステップで更にパワーが必要になる時があるそうだ。

「自分の中で『これだ!』っていう風景が見つかった時に『よし、これを絵にするぞ』って、実際に描き始めるまでに気持ちを移行させることが一番大変ですね。自分が思い描いている完成図を、この白い画用紙の中に上手く描けるだろうかと不安になったり、せっかく見つけたこの風景を台無しにしたくないって思ったりします。ノリノリの時はそのまま描けるんですけどね。自分にとってその風景が魅力的であればあるほど、向き合うまでに時間がかかる時があります」

今回の作品について、的確に言葉を選んで語ってくれる彼女から受けた印象は、自分が見つけた風景を責任持って作品にするという、絵を描くことに対しての真摯さだった。その誠実な気持ちは、どこに居ても常に忘れないようだ。

「もし自分が絵の中にいたら、サングラスをかけてTシャツ、短パン、サンダルで、気持ちの良い音楽を聴きながら『こういう風に活動していきたいな』とか『こういう絵が描きたいな』って、将来のことやポジティブな未来像を考えながら歩いていそうですね。ハワイみたいな場所に居るとより、そうなれる気がします」

内面を映し出す世界観

彼女が今のように注目されるようになったきっかけは、3年ほど前に始めた「ストリートビューで100日間・100箇所の絵を描くこと」だった。後にそれが「ストリートビュージャーニー」になり、結局120日続いたシリーズは、毎日S N Sのフォロワーを増やしていき、海外のファンも獲得した。

見応えのある彼女のインスタグラムを見ながら、今の作風が固まったのは大体何日目くらいだったのか聞いてみると、ひとつの絵を見せてくれた。

「大体この絵(112日目)あたりから、長細いものがあったり文字があったりする、こういう景色が好きだなって思い始めました。毎日絵を描いて仕上げる事が自分にした約束だったので、100日間が終わった時は『あ〜良かった』とほっとしました」

「Street View Journey No.112: An Ice-cream shop. Mexico, Yucatán( ストリートビューの旅No.112:アイスクリーム屋(メキシコ ユカタン)」

地道に描き続ける事で知名度を上げ、確立していった作風。「絵は自分の内面そのものみたい」とも話す。彼女のどんな内面が、絵の世界観に表れているのだろう。

「孤独な世界観が好きなんです。映画で例えると『レオン』みたいな。マチルダの独特の空気を身に纏っていて、ポツンと一人で寂しく自分の世界に生きているような雰囲気に惹きつけられます」

彼女の言う「孤独感」が一番表れている絵が、グアテマラの風景を描いた作品だ。

「強い影とポカンと空いている建物の入り口や窓の部分に、孤独感が表れていると思います。その奥にきっと何かあるのだろうけど、分からない。それを引きの目線で見ているということが、個人的に孤独感を感じます」

「Street View Journey: Mixco, Guatemala(ストリートビューの旅:グアテマラ  ミスコ)

時間の歪みを楽しむ

更に作品をじっくりと見ていくと、絵の中に少しだけズレがあることに気付く。空や建物に境目があったり、道がぐわんと歪んでいたりしている。このグアテマラの作品だと、電線が所々途切れている。これは何を表現しているのだろうか。

「ストリートビューのカメラの境目がずれているような、画面の歪みです。ストリートビューって、こっちでは人が歩いているけど、こっちではしゃがんでいたりとか、ストリートビューカーは前に進んでいるけど、画面上ではそれを逆に追っていくことも出来たりして、色んな時間軸が同じ画面に存在しているんですよね。それがストリートビュー独特の面白さだと思うので、強調して描いている部分です」

「Street View Journey: LA」

「Street View Journey - Corsica II 」

生きている限り実をつける

自分や他の誰かが撮った写真ではなく、誰の主観も入らないニュートラルな視点の情報で絵を描けることが、ストリートビューの良さの一つだと言う。それは彼女の絵を見る人に対する気持ちにも繋がっていた。

「自分の表現したいことはしっかりと持ちつつも、それを押し付けたくないと思っています。『こう思って欲しいんだよね』と言うより、『自由に想像して欲しい』って気持ちで描いています」

彼女が表現したいものはいつも具体的に決まっているわけではなく、それはもっとカタチのないものだそう。

「自分の中にだんだんと溜まってきた「吐き出したいもの」みたいな感じですね。それがただ出てきたというか。例えば、自分が果実をつける木だとしたら『自分は果物の木だから、実がなりました』ってくらいに何かを表現したり、創ったりすることは私には自然なことなんです。もし描けなかったとしても、何かしら創っていたいですね。それを誰かに見て欲しいし、評価もされたいと思います」

自身を果物の木に例える話を聞いて、彼女のクリエイターとしての強い気持ちがひしひしと伝わってくる。その気持ちは一体どこから来ているのか教えてくれた。

「すぐ死んじゃうんじゃないかって思っていることですかね(笑)何をしている時でも、常に頭の片隅に『死ぬんだぞ』って気持ちがある気がします。もしかしたら明日にでも、交通事故に遭うかもしれませんよね?そう思うと、時間ってそんなに無いなって。やりたいことをやって、いつ死んでも後悔しないような生き方をしようと思っています」

「でも、グータラする日もありますよ!後悔しないグータラを思いっきりします。そういう時間も絶対に必要だと思います」

可能性の旅を、これからも

決して悲観的でなく、ポジティブに「死ぬこと」に向き合っている。いつも死が頭の中にある日々の中、今やりたいことはどれくらい出来ているのか聞いた。

「今も今後もやりたいことは、常に50%位で出来ていると思います。浮き輪でプカプカと水を漂うみたいに、毎日ちょっとずつ知らない内に100%のゴールの場所が変わっているので、きっと死ぬ時も50%位なんじゃないかな。でも、達成した部分とやりたいことが、常にそれぞれ半分ずつある状態って良いと思うんですよね。死ぬ時もまだやり残したことがあって、でも確実に50%はちゃんやり遂げたことがある、っていう風に居られる方が幸せな気がします」

「ストリートビューもずっと描いてきて、正直飽きたかなって思った時もあったのですが、でもやっぱり50%なんですよね。後の50%で、ストリートビューの作品を描き続けた先に、自分にどんな可能性が見出せるのか、自分はどんな作品が描けるのかを追求していきたいと思います」

Google マップを通して描かれた世界中の風景の作品は、彼女のクリエイターとしての「生き方」を映している。前向きで努力を怠らない彼女は、これからもストリートビューで旅を続けていく。残りの50%でどんな「何かいい風景」を世界中の人に見せてくれるのだろうか。引き続き彼女の活躍に注目だ。

Information

オンライン展示会で現在作品を展示中

Dear ART
https://dearart.jp/ja/artist/artist000045

Saint Maison Gallery online exhibition "BLESSING IN DISGUISE"
https://www.saintmaison.world/collections/nao-tatsumi

GALLERY IRO online exhibition “Stories”
https://stories.1-6.jp/

Official Website: https://naotatsumi.net/index.html
Instagram: https://www.instagram.com/nao_tatsumi/

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