Vol.106

21 FEB 2020

<SERIES> アーティストFILE vol.7 曇り空が自分らしい、Taku Bannai

東京都出身。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。MJイラストレーションズ修了。 主にコラージュ作品、広告、本や雑誌、そして音楽分野など幅広く活動し、TOYOTA、SUNTORY、ANAなどのアートワークを手掛ける人気イラストレーター。今回は「パワー」をテーマに描き下ろしを依頼。

削ぎ落として溜めるパワー

「休日」
「最初テーマを聞いた時はどうしようかと思いました」と今回の制作について話し始める。パワーや力強さというワードが彼自身や彼の作品の中に大きな要素としてはなく難しかったと言う。

「自分自身のことを、人を引っ張っていくとか他の人にすごい影響を与えるようなタイプではないと感じているので、’’与える’’パワーというよりは、どちらかいうと休んでいる時に’’溜める’’パワーを描いた方が自分らしいと思いました」

「屋外なのは、何にでもできるような空間や自由な時間みたいな漠然としたイメージで、休日にボーっとリフレッシュしていらなくなったものを’’削ぎ落としていく’’感じです。こういう何もしない時間があると次に動く力が湧く気がします」

今回の描き下ろし作品「休日」は空の部分の色紙(タント紙)をベースに雲、鳥、人物、木が複数の種類の紙を用いてコラージュされている。実際に見ると、より立体感が感じられデジタルでは生まれない線の柔らかさや温かさを生み出している。

「黄色(人物の服や木のライン)の紙はコストコに売っている、アメリカで子どもが使うようなどぎつい色を集めた画用紙を使いました。人物や木の周りにある黒い線は『ここに貼ろう』ってカッターでつけた印です。昔はきっちりと綺麗に貼っていましたが、だんだんすごく辛くなってきちゃって。たまたま他の作品に雲か木を剥がした時の汚れみたいな物を残した時があって、それを見てくれた人が『こういうのすごくいいね』と言ってくれて、そこから自由にやるようになりました」

「パワー」と聞くと思わず明るさや溌剌さなどをイメージしてしまうけれど、少し褪せたような優しい色合いの「休日」。なぜこの色合いにしたのか聞くと「単純に自分がくすんでいる感じの色が好きという理由が一番だから」だそう。さらに色に対するこだわりを教えてもらった。

「色同士が響き合いやすい色を選ぶようにしています。お互いがお互いを引き立てるような色。配色のステップとしては自分が好きな色を置いていって、この黄色のようにワンポイントを入れる感じかな。色数が増えると色同士の相性を考えるのが難しくなってしまうので数はあまり使いません。色が少なくてシンプルな方が個人的には見る人が絵にスッと引き込まれる気がしますし、何より説明を最小限にしたいというのが色を決める際も、構図や要素を決める際にも大きな理由になりますね」

プラスになるより、ゼロに戻る絵

「説明を最小限にしたい」というのはどういうことだろう。聞いてみると「あまり具体的な絵にせずに、見る人が自由に想像できる余白を残したいと思っているからです」と返ってくる。それは制作のベースになる彼が大切にしていることだった。

「例えば(「休日」を見ながら)ここに建物があったら、だんだん場所が限定されていくし、もしもう一人居て手を繋いでいたりしたら、人物達の関係性もすごく説明的になってしまう。絵を描く時は自分の体験や感情を込めていますが、それを説明し過ぎるとどんどん自分の方に寄ってきて見る人が自由に想像するイメージの邪魔になってしまいそうで・・・。要素を少なくして空間や状況をなるべく説明せず、最小限にする方が(想像の)余白ができて、見た人がよりそのシーンを自分と重ねやすくなると思っています」

「作品は自分とはかなり切り離しているかもしれませんね」と話す彼の作品を見た人が感じた印象で心に残っているものがあるそう。

「昔絵を見てくれた人から『自分のその日の体調や気分によって、同じ絵を見ても明るく見えたり悲しく見えたりする。その時の気分によって見方が自由に変わる』と言って頂いたことがあったんです。元々見た人がそのような心情になれる絵を自分の理想としていましたが、それを聞いてより一層そんな絵を描いていきたいと思いました」

制作で大切にしていることを聞いてから「休日」を見ると、これは非常に彼らしいパワーの解釈だということがよく分かる。さらにこう話を続けた。

「やっぱり僕の絵はすごく元気が出てプラスになると言うよりは、ちょっと足りなくなったところに入ってくるタイプなのかもしれませんね。足りなくなったところを埋めて、またいつもの普通の状態に戻れるみたいな感じでしょうか」

たくさんの人が彼の作品に思わず魅了されてしまうのは、欠けたピースを埋めるように見る人の心にそっと寄り添い、優しい気分にさせてくれるからなのかもしれない。彼の笑顔を見てそう感じずには居られなかった。

余白を楽しんで

見たことあるような何でもない景色だけれど、いつどこで見たのか思い出せない。彼の作品を見ていると、そんな少しだけノスタルジックな気分になる。日常のワンシーンを切り取ってミニマムに表現する彼は一体どんな視点で毎日を見て、見たものを作品にしていくのだろうか?

「あまり深く考えていませんが、レイヤー的な見方はしていると思います。奥行きがある程度あって、手前・真ん中・奥みたいに。あとは映画みたいにドローンが撮るような劇的で変わったアングルではなくて常に人の目線、すぐそこで物事が起こっているような目線で見ています」

制作を始める時は、まず上下を真ん中のラインで分けて色を決めることから始める。色彩がハッキリと分かれていてシンプルな絵が好きで、なるべく大きな空間を残す構図にしているそう。

「皆が見たことのある風景って僕の中にも同じようにあって、それを無意識に頭の中から引っ張り出して描いている感じです。想像の余白を残すために、この月のように脇役になるポイントをよく使います。月があることによって、絵の中に自分の記憶や体験、その人にしかないイメージやシーンを想像することも出来ますよね。その絵の主役となっているものに全ての意味を持たせすぎない程度に、いくつかの要素を散りばめるようにしています」

「The daytime moon」

「Passenger boat」

寂しげな英国に惹かれて

大学卒業後はCMの絵コンテ制作会社に勤める。絵コンテは現場のスタッフで共有する資料のため、その場にいる人にしか見てもらえない。自分が好きな’’絵を描く’’という事に充足感を感じつつも、ふと「誰にも見てもらえないのに、ずっと描き続けていていいのか?」と考えるようになったそう。転職後も働きながらプライベートで絵を描くが悶々とした気持ちは続いていた。そんな時にある画集に出会う。

「アレックス・カッツの『Collages』という古い画集を本屋で見て、『この雰囲気を今の現代に置き換えて表現したい』と思いました。その当時も今と近い雰囲気の作風でしたけど、基準がなくて悩んでいたので『もっと(情報を)抜いてもいいんだ』って自分の中でしっくりときました」

他にも影響されているのは、昔からよく出向いているイギリスだそう。

「The SmithsとかUKの音楽が好きで、ケン・ローチなどの労働者階級をテーマとした映画にも影響を受けています。カーブーツセール(蚤の市)にもよく行きました。そこで見た日常で使われている古びた食器や小物とかが物としてすごく良いなって思って。壊れてもすぐ捨てずに直して使って・・ってことを何世代にも渡ってやっている。それでも必要がなくなったら他の人に使ってもらうというような生活がそこにあったんです。皆が身の回りにある物を当たり前のように大事している姿が素敵だなと素直に思いました」

「ブライトンに行った時も若者達がどこにでもあるようなパーカーを羽織っている姿がすごく印象的でした。ファッションとしてというよりは、今持っている服を(もしかしたら)しょうがなく着ている雰囲気でした。ただその姿が妙にカッコよく見えたんです。そういう着飾らない、主張しない状態っていうのはイギリスで見たものがベースになっていて、絵の登場人物にも影響を与えているかもしれません」

「Way Back」
映画はインスピレーションのひとつでもあり、アイデアを枯渇させないための大切なルーティン。特に好きな映画はジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(STRANGER THAN PARADISE/1984)だ。
「見た時は衝撃的でしたね。映画って基本的に非日常的な娯楽を求めて見に行くじゃないですか?だけど何も起こらなくて。モノクロで淡々と物語が進んでいくのを見て『こういう表現の仕方があるんだ』って静かに興奮しました。そこにある普通の風景と日常の何でもないやりとりがベースになっていて、登場人物達のちょっとした感情が繋がって展開していくような。それは自分の絵にも通じるものがあると思います」

「映画だけじゃなくて他の好きなものにも共通して言えることですが、僕は少し寂しげなものが好きみたいです。ハッピーじゃないところに惹かれるというか興味が湧きますね。元気な感じというのは自分の中にはなくて、(自分の絵を描く時は)快晴の明るい空よりもイギリスの曇り空の方が僕は好きです」

大切に、繋げていく点と点

「曇り空が好き」と何が自分らしさなのかを人一倍理解している彼が、ここまで来るのには長い時間がかかった。どんなに忙しくても絵を描く上で大切にしてきたこと、これからも大切にしていきたいことを最後に教えてもらった。

「描き続けることが大事だなって思います。働きながら描いていた時はイラストで食べていけるなんて想像がつきませんでしたが、週末や仕事が終わってから作品を描き続けたことで誰かに絵を見てもらえたり、自分自身も周りの方の絵と比べて試行錯誤することができたりして、段々と声をかけて頂けるようになりました。それが今の活動や仕事に全て繋がっています」

「何より仕事や絵を通して、年齢や職種、国籍を越えて様々な方に知り合うことができたことが、僕にとってはかけがえのないものです。 これからも描き続けることで生まれる出会いを大切にしていきたいです」

自分の中の足りなくなってしまった何かをカバーしてくれる優しくて寛容な彼の作品。彼自身も温和で気品に溢れ、ひとつひとつの出会いを大切にしている魅力的な人だ。これからも彼の作品は見る人それぞれの物語を紡いでいってくれるはず。どんな余白を私達に残してくれるのか、今後の制作活動から目が離せない。

Information

坂内拓
Official Website:https://www.bannaitaku.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/takubannai/

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